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日本における公会計の状況-地方公営企業の会計制度改定-

(1) 日本における公会計及び公会計基準の状況

 

1) 公会計

 

 日本における国や地方公共団体の会計、すなわち公会計については、長らく資金の収支に基づく収支会計を基本として作成されてきた。また、収支の予算が重視され、決算は従来あまり注目されない状況にあった。

 しかし、国や地方自治体の財政赤字が大きな政治問題となる中で、また、国債、地方債の購入者のそれらの財務情報に対する関心の高まりも背景に、発生主義に基づく会計処理を行い、適正な損益(収支差額)の算定やストックとしての資産や負債の残高を示す財政状態の開示が必要との考え方が提起された。

 また、国や地方自治体の活動分野の民営化が叫ばれ、民間企業が公的財政分野に進出し、競合する(いわゆるイコールフッティング)動きが強まる中で、公会計についても民間の企業会計と同様のルールとし、比較できるようにすべきとの意見も出された。

 21世紀に入って、公会計全般が上記考え方に沿った動きとなっている。

 

2) 公会計基準

 

 日本において、統一した公会計の基準は存在しない。現在でもそうした状況は変わっていないが、1999年に首相直属の諮問機関である経済戦略会議が「国等の財政・資産状況を分かりやすく開示するために企業会計原則の基本的要素を踏まえつつ財務諸表を導入すべき」との提言を行ったことを受け、それにそった形で見直しが行われている。見直しの方向は共通して1)で述べたような考え方に基づく。

 国については、財務省の財政制度等審議会により省庁別財務書類の作成基準が策定され(2003年)、省庁ごと、一般、特別会計ごとにそれにそった財務諸表が作成されている。

 地方自治体については、総務省よりいわゆる総務省方式改定モデルと基準モデルの2種類が2006年に公表され、2012年3月時点でいずれかのモデルを採用する地方自治体は7割強に到達している。

 また、21世記になって本格的に制度化された独立行政法人等についてはそれぞれの法人形態ごとに企業会計の基準に準ずる形で会計基準が定められている。

 

(2) 地方公営企業の会計制度改定の概要

 

 地方公営企業法は、その政省令において適用対象の公営企業について統一した会計制度(会計基準)を定めているが、この間重要な改定が行われた(平成24年(2012年)2月施行)。 基本的に以下のような考え方に基づく改定を行っている。

・ 民間企業会計原則の考え方を最大限取り入れたものとすること

・ 地方公営企業の特性等を適切に勘案しつつ、地方分権改革にそったものとすること

 

 この間さかんに統廃合等が進められている地方自治体病院は地方公営企業の一つであり、当然この改定の影響を受けることになる。実際の適用は平成26年度(2014年度)の予算及び決算からとなっているが、その概要及びそれによる自治体病院等の財政に与える影響は以下のとおりである。

 

1) 民間企業会計原則の考え方の導入

 

 この間の企業会計における改定の動向を踏まえつつ、その積極的な導入をはかっている。主な項目は以下のとおりである。

 

a 退職給付、賞与、貸倒等引当金の計上

 

b 減損会計

 

c リース会計

 

d セグメント情報の開示 等

 

 この内、退職給付引当金については、地方自治体の一般会計と地方公営企業会計との負担区分を明確にした上で、地方公営企業負担職員について、退職給付負担額(簡便的には期末要支給額)を計上する。なお、最長15年以内で計画的に計上していくことを認めるが、今後自治体病院において大きな負担となる可能性がある。

 

2) 地方公営企業会計の独自処理

 

a 「借入資本金」の資本から負債への区分変更

 

 従来病院建設のために地方自治体が発行した地方債(建設改良企業債)は、「借入資本金」として負債でなく資本表示してきたが、本来の負債表示とする。この結果資本の金額、割合は大きく減少することになり、自治体病院の財政比率は大きく悪化することになる。

 

b 資本制度

 

従来資本については原則として処分、取り崩しが認められなかったが、法定積立金(減債積立金、利益積立金)の積み立て義務の廃止と同時に、条例または議会の議決を経て処分、取り崩しが可能とする。

 

c 補助金等により取得した固定資産の償却制度

 

 従来固定資産の取得のために受領した補助金等の部分は減価償却の対象から除外することができた(みなし償却制度)。今回の改定ではそれを認めないこととし、全額減価償却を行う。

 また、それに対応し、補助金等は従来の資本剰余金表示から、一旦負債(長期前受金)に計上した上で減価償却見合分を順次収益化する。

 

3) 地方公営企業の財政に与える影響

 

上記のような改定の結果、地方公営企業の財政がより明瞭になり、民間企業等他の設立形態との財政比較が容易になるというメリットはある。また、施設建設のための借金(建設改良企業債)を「借入資本金」という会計的には意味不明の名称で資本表示するといった問題も解消される。

 しかし、(2)のような会計処理を行うことで、費用は増加し、自己資本は減少することになり、自治体財政健全化法での財務分析比率(健全化指標)が大幅に悪化することは間違いない。また、ほぼ民間企業と同様の会計処理、表示になることで地方公営企業を民営化する時の判断資料としてそのまま利用できることになる。この間の地方自治体に対する財政面からの攻撃をさらに促進する役割を果たすことになると考えられる。

 

(3) 公会計の改定へのたたかいと対応

 以上の点を踏まえて、公会計の改定への対応の基本的方向は以下のように考える。

 

1) 従来の資金収支に偏った会計制度の見直しを行い、総合的な財政運営成績と財政状態を示すものとして積極的にとらえ、財政の適切かつ効率的な運営をめざし、学習し活用していくことが求められる。

 

2) 一方で、この改定の狙いが新自由主義的経済政策、公益的な活動や事業の縮小、あるいはそうした分野への民間営利企業の参入にあることもつかんでおく必要がある。公会計は公益的諸活動の維持、発展のためにあるという立場で、機械的な企業会計制度の導入等には批判的観点を持ち、対処していくことが求められる。

 

 以上

(根本 守)

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