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資本的支出と修繕費

(1) 資本的支出と修繕費の区分

 法人が固定資産の修理や改良などを行った場合、税務上2通りの処理が考えられます。

費用の支出を、資本的支出と収益的支出(修繕費)のいずれと認識するかということです。これはいったん資産に計上して以後耐用期間にわたり徐々に減価償却を行うか、支出した全額が当期の費用となるかの違いとなります。

 資本的支出と収益的支出(修繕費)のどちらであるかは、その支出により固定資産の価値が増加または耐用年数が延長するか、維持修繕にとどまるかで判断します。単純に言えば、元に戻すことが修繕費であり、それ以上の改良があれば資本的支出になるということなのですが、実務的には明快にわからない場合も多くあります。いずれの処理を行うかで課税所得の計算に影響を及ぼすため、この判断基準に関して以下のような取扱いが設けられています。

 

(2) 資本的支出とされるもの

法人の資本的支出とは、修理、改良などその名義を問わず、固定資産について支出する金額のうち次の金額をいいます(令132)。

1)使用可能期間(耐用年数)が延長されると認められる場合

2)価額が増加すると認められる場合

 

具体的には (基通7-8-1)に例示されています。

 

1)建物の避難階段の取付等物理的に付加した部分に係る費用の額

2)用途変更のための模様替え等改造又は改装に直接要した費用の額

3)機械の部分品を特に品質又は性能の高いものに取り替えた場合のその取替えに要した費用の額のうち通常の取替えの場合にその取替えに要すると認められる費用の額を超える部分の金額

 

注)建物の増築、構築物の拡張、延長等は建物等の取得に当たります。

 

(3) 修繕費とされるもの

 収益的支出(修繕費)とは、固定資産の修理、改良などのために支出した金額のうち、その固定資産の通常の維持管理費用、あるいは災害等に対する原状回復費用などをいいます。具体的に次のような金額は、「修繕費」として全額を損金に算入することが認められています(基通7-8-2)。

 

1)建物の移えい又は解体移築をした場合(移えい又は解体移築を予定して取得した建物についてした場合を除く。)におけるその移えい又は移築に要した費用の額。ただし、解体移築にあっては、旧資材の70%以上がその性質上再使用できる場合であって、当該旧資材をそのまま利用して従前の建物と同一の規模及び構造の建物を再建築するものに限る。

2)機械装置の移設(7-3-12《集中生産を行う等のための機械装置の移設費》の本文の適用のある移設を除く。)に要した費用(解体費を含む。)の額

 

注)以下例示が続きますがあまり一般的でないとの判断から割愛します。本通達が掲載されている法規集や末尾に記載した国税庁HPからご確認ください。

 

(4) 資本的支出と修繕費の判定

 上記のように、通達で資本的支出と修繕費の具体例が示されていますが、あくまで例示であり、資本的支出もしくは修繕費に該当するものが限定されているわけではありません。実務上は判断に迷う場合もあります。そのような時は、原則、次のような基準で判定します。

 

イ) 少額または周期の短い費用の損金算入(基通7-8-3)

一つの修理や改良のために支出した費用が、次のいずれかに該当すれば修繕費として損金経理することができます。

1) 支出額が20万円未満の場合

2) おおむね3年以内の周期で修理や改良が行われている場合

 

ロ) 形式基準による修繕費の判定(基通7-8-4)

資本的支出であるか修繕費であるかが明らかでない金額で次のいずれかに該当するものは、修繕費として損金経理することができます。

1)支出額が60万円未満の場合

2)支出額が修理・改良をした固定資産の前期末の取得価額のおおむね10%相当額以下である場合

 

注)10%基準は、「原始取得価額+前期末までに支出した資本的支出の額」で判定します。

 

ハ)資本的支出と修繕費の区分の特例(基通7-8-5)

 資本的支出であるか修繕費であるかが明らかでない場合には、継続適用を条件として、次のいずれか少ない金額を修繕費として損金経理することができます。

1)支出額の30%相当額

2)その固定資産の前期末取得価額の10%相当額

 

ニ) 災害などの場合の特例(基通7-8-6)

 災害などで損傷した固定資産に対する支出額で、資本的支出であるか修繕費であるかが明らかでないものは、支出額の30%相当額を修繕費として損金経理することができます。

 

(5) 判定順序

 これまで記した通達での判定は以下の順序で行います。

1) (4)-イ) 少額または周期の短い費用の損金算入 に該当する → 修繕費

2) 明らかに (2)資本的支出とされるもの に該当する → 資本的支出

3) 明らかに (3)修繕費とされるもの に該当する → 修繕費

4) (4)-ロ) 形式基準による修繕費の判定 に該当する → 修繕費

5) (4)-ハ)資本的支出と修繕費の区分の特例 に該当する → 修繕費(30%or前期末10%)+資本的支出(残額)

6) (4)-ニ) 災害などの場合の特例 に該当する → 修繕費(30%)+資本的支出(70%)

 

 参照した通達等については、国税庁HPにて ホーム>税について調べる>法令解釈通達>基本通達・法人税法>第8節 資本的支出と修繕費 のカテゴリで参照できます。今回、記載していない例示、通達もありますのでご参照ください。

 また、本文は法人税法の通達を参照していますが、所得税の基本通達としても同様の内容が規定されています。同じく国税庁HPから ホーム>税について調べる>法令解釈通達>通達目次 / 所得税基本通達>〔資本的支出と修繕費等〕 のカテゴリで参照できます。

 

(濱谷 学)

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