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事業者から見た消費税の本質

はじめに

 

 消費税率が8%に引き上げられて5ヶ月が経ちました。「景気は緩やかな回復基調が続いている」(8月の月例経済報告より)と政府は繰り返していますが、4月に増税されて以降、個人消費や住宅建設は大幅に落ち込み低迷が続いています。また、物価は上昇し続け、雇用や所得の改善も程遠い状態です。

 このような経済状況にも関わらず、安倍政権は年末までには15年10月からの消費税の再増税を強行しようとしています。安倍政権の見通しの甘さと詭弁が明らかになった以上、国民生活と日本経済を破壊させる消費税増税は中止すべきであります。

 そこで、消費税増税反対の声を圧倒的多数にしていくために、商業マスコミが報道しない消費税の本質を簡潔に述べたいと思います。

 

1.消費税は法人税減収の穴埋めに使われている

 

 1989年4月に消費税が導入されて以来、法人税率は一貫して減少し続け、安倍政権は10%への消費税増税と同時に法人税率を20%台にまで引き下げることを目指しています。そもそも日本の大企業には研究開発減税や外国税額控除などの軽減税率制度があり、実際に支払っている法人税率はもっと低く、それをさらに下げようというのが安倍政権の狙いです。法人税減収分を補うための新たな財源が消費税増税なのです。

 このことは、消費税導入後の歴史をみれば明らかです。消費税が導入されてからの25年間(1989年度~2014年度まで)の消費税収は約282兆円であるのに対して、法人税等(法人税、法人住民税、法人事業税)の減税額は約255兆円であり、国民や中小零細企業から得た消費税収は、法人税減税の穴埋めに使われるのが実態です。

 

2.消費税の仕組み(一般論)

 

 事業者は、課税売上に係る消費税額(預かった消費税)から、課税仕入等に係る消費税額(支払った消費税)を差し引いて消費税を納税します。したがって、最終消費者が消費税を負担し、事業者は消費税を申告・納付することとされており、事業者に税負担はないと想定されています。

 しかし、これは現実を見ないまやかしであって、消費税を販売価格に上乗せできず、消費税を実質的に負担している中小零細企業が数多く存在します。

 

3.担税者が決められていない

 

 現在の消費税法では、消費税の申告・納税義務者は「年間の課税売上高が1千万円以上の事業者」となっていますが、実際に消費税を負担する担税者については、規定がありません。すなわち、事業者が消費税を税務署に納める際に、誰が消費税を負担するのかについての決まりが消費税法には記載されていないのです。

 大企業は消費者に対して容易に消費税を販売価格に転嫁することができるうえに、下請け業者に対しては、消費税分の値引きを強要し実質的な消費税の負担を押し付けることが可能となるのであります。つまり、担税者が規定されておらず、自由主義経済である以上、事業者と消費者、あるいは事業者同士の間の力関係で、弱者がより多くの消費税を負担させられているのです。消費税が弱肉強食の不平等の税金たる所以です。

 

4.非営利事業には損税が発生する

 

 医療や介護は社会政策的な配慮に基づいて非課税とされており、患者や利用者から消費税は受け取っていません。他方、保険診療や介護サービスの提供を行うのに必要な医薬品や医療機器、委託費、諸経費等の購入に際しては消費税を支払っています。しかし、非課税事業である以上、納税額の計算に際して、保険診療や介護サービスの提供分の仕入に係る消費税額を控除することはできません。医療機関や介護事業所が消費税(損税)を負担しているのです。

 医療や介護事業は、消費者(患者や利用者)にとっては非課税であるが、事業者からすれば、仕入等に係る消費税を負担しているのです。

 

5.輸出大企業優遇の不公平税制

 

 多くの中小零細企業が利益をすり減らしながら消費税を負担しているのに対し、輸出大企業には巨額の還付金が戻ってきます。これを輸出還付金(輸出戻し税)といいますが、輸出品には消費税を転嫁できないため、仕入等に含まれる消費税を輸出企業に還付する制度です。

価格決定に優位性のある大企業の立場は強く、自由主義経済である以上、下請け業者に単価切り下げ、値引を強要しているのが実態です。消費税増税分の価格転嫁もままならない下請け業者の負担が重くなる一方で輸出企業には消費税が還付されるのです。

例えば、トヨタ自動車では、年間約1800億円(13年3月期)の消費税の還付を受けています。消費税8%ならば約2,880億円、10%ならば約3600億円の還付を受けます。消費税が上がれば上がるほど、輸出大企業が受け取る還付金が増えるのです。

医療や介護事業には損税が発生する一方、輸出大企業には輸出還付金が戻されているのです。こんな不公平税制はありません。

 

6.まとめ

 

 消費税は、財政再建や社会保障、福祉のためではなく、法人税の減税のための財源であります。また、仕組として大企業優遇の不公平税制です。

 このことを理解して、消費税増税反対の声を一緒に挙げていきましょう。

(公認会計士 田中淑寛)

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