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非営利・協同の事業組織における予算

 経営を巡る課題や諸矛盾の解決が見えなくても毎年の決算や予算の課題に取り組むべき時期が到来します。まことに頭の痛くなるテーマですが、非営利・協同の事業組織においても真正面から向き合うべき問題であると考えられます。ここでは、予算編成と管理についてそのポイントを記載します。記載内容は言うまでも無く絶対的なものではありませんが、皆様の議論検討の際に参考にして頂ければと思います。

 

1.予算編成の基本

 市場の企業も利益計画という予算を作ります。市場の評価は計画比よりも前年比に関心が寄せられることが多いように感じるところです。コスト増でも利益額(率)の拡大が重視されがちです。これに対して非営利・協同の事業組織ではどうでしょうか。利益を第一の目的とはしていないので計画などは必要ないのでしょうか?そうではありません。市場の企業の経営の日常的尺度が利益であるのに対して、非営利・協同の日常的な経営尺度は、「予算」ということとなります。   

(1)予算編成の基本方針

1)予算とは

 予算は非営利・協同の事業組織の柱です。その意義は以下のようなポイントにあると考えられます。

 ・年間の事業活動方針の計数的、経営的な裏付け資料となる。 

 ・事業活動方針と共に全役職員の意思統一のカナメとなる。

 ・年間を通じて、活動と経営の点検検証の基礎数値となる。

 ・毎年の予算編成と執行点検を通じて、より合理的な予算作成が可能となる。

2)予算編成時

 組織の幹部等が予算編成作業を独り占めにしてはいけません。それは非営利・協同の事業組織の根幹である民主的管理運営に馴染まないことは明白です。ポイントとしては以下のような点が考えられます。

 ・毎年年度末の2~3ヶ月前までには機関会議等で予算編成方針案を作成し議論検討する。

 ・年度末頃までに各事業所での検討と数値化を実施して予算案を固める。

 ・決算総会や総代会までに、資金課題を含めて予算案の裏を取り検証する。

 ・予算と関連計画が確定したときは、多くの役職員が参加する会議等を実施し、役職員にその内容と意義を周知徹底する。

 

(2)職場からの予算討議

 計画する予算が確実に達成できるかどうかは、計画数値の合理性に依拠することは当然ですが。もう一つ大切なことは、当該予算が民主的管理運営の取り組みの一環としての各会議や集会等で活発な議論と共に基本的な支持を受けたものかどうかという点です。とりわけ各職場での討議が重要であることはいうまでもありません。「みんなで作った予算ほど強いものはない。」と言えます。

 非営利・協同の事業組織で「協同の営み」が形骸化したり、無視されたりすると、次第に様々なロスが発生拡大して赤字を蓄積増大していきます。皆さん方の経営が適正かつ合理的な予算編成をするためには、「予算の協同」が必要不可欠です。具体的には、各事業所、各部門、各職場での可能最大限の予算討議の実践が求められます。もとより、いきなり旺盛活発な議論は容易ではないでしょうが、年々の取組等を記録検討し、次の機会の手立てを検討実践していくことが大切です。

 

2. 資金繰り

 経営状態が急速に悪化した非営利・協同の事業組織の経営の多くでは、想定外のあるいは突破的な事由による経営不良ではありません。非営利・協同の事業組織の経営不良の多くは資金繰り困難に起因すると言えます。

 年度の予算も長期経営計画も資金繰り計画を作成し検証確認しない限りその信頼性は低くなると言わざるを得ません。経営は資金が廻っていさえすれば即座に破綻することはそうそうありません。資金繰りが厳しくなるかもしれないと予測し何らかの手立てを講じておけば、多くの役職員らは事業活動本来の業務に専念することができるのです。逆に、資金繰りの検討をしない若しくは合理的な資金繰り予測を実行することができない非営利・協同の事業組織はいずれ経営不振状態に見舞われることとなるでしょう。

 つまり資金繰り、キャッシュフロー予算がはっきりしていない予算案は信頼性に乏しいものと言わざるを得ないのです。

 

3.予算管理

 予算は計画作成するのが目的ではありません。予算と実績と比較検討し、民主的管理運営の実態を検証し、もって次期以降に計画する予算の精度アップを図ることが目的です。毎月の予算管理の状況が次代の経営をもたらすこととなるのです。

(1)月次実績と予算の対比

 月次の経営実績資料が作成され月次予算との対比を実施します。その比較検討の重要ポイントを列挙すれば次の通りです。

 ・まず月次の利益の予算増減を検討し、次にその増減の主要要因例えば事業収益や人件費、材料費、経費等の比較と、その発生原因を吟味します。

 ・次に各事業所は、当月検証内容のうち、次月以降に改善等すべき取組を検討議論し打てる手立てを講じることが重要です。もとより、すぐに対応しきれない課題もあり得るので、改善策を見出すための取組の組織化を図ります。何の策も講じず議論しない、これだけは避けなければなりません。

(2)早期の点検  

 月次決算は早期終了、早期点検、早期対策、が決め手であると言えます。これのいずれかでもスピードと取組内容に欠陥があると、せっかくつくった予算の意義が失われ、民主的管理運営は形骸化しつつ経営不良を引き起こす可能性が高まると言えます。毎月、月半ばまでには検討が終了し経営改善手立てが確認実行される取組が期待されるところです。

(3)節目ごとの全役職員討議 

 四半期、上半期等々の節目では、通常月次での事業所ごと、職場ごとの予算実績検討に加えて、組織全体での予算達成の為の意思統一会議等の取組も重要です。民主的管理運営は手間とコストが必要ですが、それを重視して取り組まないと、さらに厳しい結果を招くこととなると言えます。

(坂根 哲也)

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