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マイナンバー制度の問題点

はじめに

 

 みなさんは、マイナンバー制度の内容をご存じでしょうか?

 マイナンバー制度とは、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(番号法)に基づく「社会保障・税番号制度」のことであり、立法趣旨は社会保障、税及び災害対策の分野における行政運営の効率化を図り、国民にとって利便性の高い、公平・公正な社会を実現するための社会基盤として導入するとされています。

 しかし、その本質は、国民一人一人の社会保障の利用状況と保険料及び税の納付状況を国が一括管理するものであり、社会保障費の抑制、削減を効率的に進めることが真の狙いです。そもそも、国民のプライバシーや個人情報(基本的人権)を国家統制により一元的に管理すること自体問題のある制度であるといえます。

 今年10月から住民票を有するすべての人に一人一つの個人番号(12桁)が「通知カード」により通知され、来年1月から社会保障・税・災害対策の分野でマイナンバーの利用が開始される予定ですが、国の説明、周知不足や作業遅れのため、自治体や事業者の準備が進まないなど新たな問題が浮上してきているようです。

 そこで、事業者が実務整備を進めていくうえで明らかになってきた問題点を概括し、マイナンバー制度の運用上の問題点を指摘し、私の見解を述べたいと思います。

 

 

1.事業者(企業)に課せられる義務

 

 2016年(来年)以降、規模の大小に関わらず、すべての事業者には、社会保障や税の手続においてマイナンバー制度に対応することが法律で義務付けられています。 また、マイナンバー制度の特徴として、従来の類似制度(個人情報保護法や住民基本台帳法など)に比べて非常に厳しい罰則規定が設けられています。さらに、従業員による違反行為があった場合には、事業者そのものが罰則の対象となります。

 マイナンバーの情報管理のために様々な規制を設けて、情報漏えいなどの悪用への牽制をかけていますが、そもそも罰則で縛らなければならない制度自体矛盾があり、国民のための法制度とはいえません。

 

2.事業者におけるマイナンバーの管理

 

 事業者は社会保険や税関連の業務を代行して行っているため、従業員等から提示された個人番号や法人番号の取扱いが必要となり、取扱うマイナンバーに関して細心の注意を払って管理することが法律上求められています。

 番号法では、マイナンバーを利用する社会保障、税分野の業務を予め法律に規定しているため、法律に規定されていない分野でのマイナンバーの取得・利用・保管は禁じられています。そのため、事業者が業務上マイナンバーを取扱う際には、目的外利用に該当しないかを常に確認する必要があるということです。例えば、転居に伴い従業員の住所確認を行うために住民票の写しの提出を求める社内ルールがある場合、このような業務は法律には規定されていないため、住所地確認のためにマイナンバー記載の住民票の写しを受け取った場合には、目的外取得と看做され法令違反となる可能性があります。

 また、事業者には入手したマイナンバーに関わる情報の安全管理が求められており、具体的には「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」及び「(別添)特定個人情報に関する安全管理措置」に則って安全管理を整備していく必要があります。このガイドラインは従来の個人情報保護の考え方を踏襲しているとされていますが、決定的な違いは、マイナンバー情報の目的外の保管を厳しく禁じていることであり、「目的外」とは、本来保有すべきでない情報を入手して保管すること以外に、業務上の必要性で保管していた情報もその必要性がなくなった場合にその情報を保有し続けると「目的外」に該当するということです。例えば、退職等により不要になった書類や情報の中でマイナンバーが記載されているものについては、法定保存期限が過ぎたものから適時適切に削除することが求められているのです。

 このように、法律に厳格に規定されているがために、従来の業務に支障をきたす可能性もあり、かつ法律の要請に対応するためには、相当の時間とシステム改修等のコストも発生することが予想され、費用対効果の点からいってもマイナンバー制度には問題があるといえます。

 

3.本人確認手続の煩雑さ

 

 事業者は、すべての従業員等からマイナンバーの取得が必要であり、その際には本人確認手続が義務付けられています。このマイナンバーの提供に伴う本人確認手続は、金融機関で口座開設の際に実施されているような身分証明書での確認(本人の実在性確認)だけでは不十分であり、個人番号が正確に記載されているかの確認(番号の真正性確認)も必要になります。つまり、金融機関で口座開設する際の手続以上に煩雑な本人確認手続をすべての従業員等に対して行う必要があるということです。

 また、事業者は、税に関わる各種の支払調書を作成しており、「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」や「不動産使用料の支払調書」等を作成する際にも、マイナンバーの記載が必要であり、各対象者のマイナンバーを入手しなければならず、もちろん本人確認手続も要請されます。講師等に報酬を支払う際にマイナンバーを入手して本人確認手続を行うことが現実的なのか非常に疑問が残ります。

 

 

4.個人情報の流出

 

 国内においても名簿等の個人情報の流出や悪用が頻繁に起こっており、抜本的な対策が何ら講じられていない状況下において、名簿等の情報よりさらに高度な情報が詰まっているマイナンバー情報が流出しない保障は全くないといえます。また、すでに社会保障番号制度を導入しているアメリカでは、個人情報の大量流出や不正使用が大問題になっています。

 内閣府が2月19日に発表した「マイナンバー制度に関する世論調査」では、「個人情報が漏えいすることにより、プライバシーが侵害されるおそれがある」32.6%、「マイナンバーや個人情報の不正利用により、被害にあうおそれがある」32.3%となっており、国民世論のマイナンバー制度への懸念と不安は明確です。

 

 

5.まとめ

 

 国民のプライバシーを危うくするマイナンバー制度は、実施を強行し、さらに利用範囲を拡大していくのではなく、問題点を明らかにし問題点が改善され、国民の不安が払拭され、国民多数の同意があってはじめて導入されるべきものです。

 現状でも、様々な問題が顕在化してきており、危険で脆弱な仕組みを強引に進めることは、社会的に大混乱を引き起こし、将来に重大な禍根を残すことになりかねません。

 いま、国民及び事業者に必要なことは、マイナンバー制度の問題点や情報漏えいへの不安の声を大にして発信していくことと考えます。そのためには、このマイナンバー制度の中身を知っていただきたいと思います。知れば知るほど不安になってきます。この文章がそのきっかけになれば幸いです。

 現状においては、マイナンバー制度は、強権的に実施するのではなく、中止すべきと考えます。

 

(公認会計士 田中淑寛)

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