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通勤手当の所得税と社会保険料等における取り扱いの違いについて

 給与計算や社会保険等に関する業務を行う中で、ふと疑問に思いました。

 通勤手当は、給与計算では源泉徴収の対象としませんが社会保険料の計算上は報酬に含めます。

 この取り扱いの違いの理由やそれによって何が起こるのか。調査した内容について記載します。

 

1.所得税(給与所得)での取り扱い

 

 役員や使用人に通常の給与に加算して支給する通勤手当や通勤定期券などは、一定の限度額まで非課税となっています。(所得税法9条1・施行令20条2)

 

1)電車・バス等の公共交通機関を通勤に利用している場合の非課税限度額は月10万円です。

2)マイカー・自転車通勤の場合は通勤距離に応じて非課税限度額が設定されています(詳細は国税庁HPタックスアンサー「No.2585 マイカー・自転車通勤者の通勤手当」を参照下さい)

 

 これは、所得税法において「通勤手当は、勤務に伴う実費弁済的な性質を有するものである」「通勤手当は、職務の性質上欠くことができない旅費に準ずる性質を有するものと考えることが妥当である」という考え方から、限度額の改正を行いつつ昭和41年の改正から位置づけられています。

 給与をもらうための仕事をする場所へ行くために支払ってしまう通勤手当は手元には残らないので給与としての課税はしないということです。

 

2.社会保険・労働保険での取り扱い

 

 社会保険の対象となる報酬とは、「賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が労働の対象として受けるすべてのものをいう。ただし臨時に受けるものは、この限りでない」と定められています。(厚生年金保険法第3条1項1号)

 また、昭和27年の厚生省保険局健康保険課長からの疑義解釈の通知に「通勤手当は被保険者の通常の生計費の一部に当てられているのであるから、(中略)当然報酬と解することが妥当と考えられる」と位置づけられています。

 労働保険では、労働保険(雇用保険・労災保険)の対象となる賃金とは「賃金、給料、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働の対象として事業主が支払うもの」と定められています。(労働保険徴収法第2条2項)

 

 つまり、手当である通勤手当は社会保険・労働保険の計算の賦課対象(報酬・賃金)に含まれます。

 

 これは、社会保険・労働保険ともに、労働者が労働を提供した対価として常時また定期的に受けた労働者の生計に充てられる報酬・手当等であれば賦課対象とみなされるということです。

 仕事場に行って仕事をして給与等を貰わなければ生活ができません。ならば、その仕事場に行くための通勤手当は生活に必要な手当だから賦課対象となるという考え方です。

 

3.取り扱いの違いによって生じること

 

 通勤手当の所得税と社会保険料等での取り扱いの違いによって、より具体的には通勤手当が社会保険料等の賦課対象となっていることで生じることの例として以下のようなことがあります。

 

1)引っ越しによって給与等の手取額が減ったor増えた

 

2)同期と給与額が同じなのに手取額が異なる

 

 どちらの場合も給与額が変更なければ、給与にかかる源泉所得税は変わりません。しかし、通勤手当の金額が一定以上異なると社会保険料等の控除額も変わります。そのために差が生じることとなります。

 通勤手当が多額であるほど社会保険料等の控除額も多額になるため、給与額に変更がないと実質的な手取額が減少します。

 但し、社会保険料等の支払いが多いということは、保険から支払われる傷病手当等の手当や将来受給する年金の金額が多くなる、つまり社会保障が一定手厚くなるということです。

 

4.おわりに

 

 通勤手当を社会保険等の賦課対象から外すかどうかは過去に何度も国会の委員会等で取り上げられています。しかし、調べた限りでは主に保険料の収入が減少するとの理由から結論は出さずあいまいに終了しているようです。

 

 通勤手当は、本人の意思によってのみ決定できるものではありません。業務命令等によって遠方への通勤となる場合もあるでしょう。様々な状況から引っ越さざるをえない場合もあります。また、前述した通り通勤手当の違い、つまり仕事場からの通勤距離で同じ給与を貰っている人でも手取額や社会保険の保障額に差が出てしまいます。

 それは、本人の意思や能力・実績等に関係のない部分で実質的な手取り給与、そして社会保険等の社会保障に差が出るということです。

 個人的には、社会保障を可能な限り公平にするという観点から社会保険等の賦課対象から通勤手当を外すよう再度検討すべきだろうと考えています。

 

(濱谷 学)

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