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【マイナンバー制度をスタートさせたらダメだ!】

 マイナンバー制度に感じている恐怖について雑記しようと思う。各種報道に接して感じる恐怖であって、用語を含めて考察したものではないことを予めお詫びしておく。

 

 非営利・協同の組織の皆さんでも、施行期日が迫るなか実務対応に心が奪われて、そもそも重大な人権侵害に結びつく問題としての議論が後景に追いやられているように思われる。マイナンバー制度は、安保法制、盗聴法・司法取引・共謀罪、秘密保護法などとともに、アベ政治がすすめる「戦争する国づくり」「世界で一番企業が活動しやすい国づくり」を将来にわたって保障する法制度ではないかと思っている。国民を日常的に監視して統制するためのインフラ整備の一環で、国家総動員・治安維持を視野にしているのではないかという恐怖である。

 

 住基ネットの時には反対世論の盛り上がりがあったが、マイナンバーについては2013年の国会通過でもほぼ「無風」で、私に一生消えない背番号がついてしまう日が目前に迫っても、危惧はされても明確な反対世論としては浮上していない。住基ネットは個人情報とマッチングさせるものではないから「安全」だし、違憲ではないという議論だったと記憶しているが、マイナンバーは個人情報をマッチングして利用することを目的としており、危険だし違憲なのではないか。

 

 「税と社会保障」に限った装いで成立させ、すぐさま適用拡大が進められている。不公平が少しでも無くなると、なんとなく期待するムードになっている。地デジ放送やスマホも一役買って、デジタル化されたビッグデータなるものが庶民生活を楽しげに演出してくれるように受け取られているのかもしれない。

 しかし、「便利になる」と宣伝されていることは、どれほど便利になり、一生涯で何回便利になるのだろうか。不公平の是正と言うが、弱いものが弱いものをたたくための不公平は喧伝され、大多数の弱いものと一握りの強いものとの不公平に対しては「トリクルダウン」という神話でごまかされていないか。

 

 マイナンバーに関する国・自治体のコスト(使われる税金)は初期費用で5000億円とも一兆円とも報道され、運用に毎年数百億円といった報道もある。社会保障制度を拡充どころか改悪して作った財源ではないか。民間の初期費用も単純平均で1社100万円超という報道がされており、厳しい経営に喘ぎ賃上げもできない中小企業や労働集約型の医療福祉など非営利分野の経営にとっては死活問題である。

 莫大なコストを負担し続けながら、従事者やその家族をはじめ大切な人たちのプライバシーを危険にさらすリスクを負い、重い罰則による脅迫を受け続けることになる。

国民一人ひとりにとって、それらを受忍する価値があるのだろうか。年金情報を125万件流出させて補償するつもりも無い政府のもとで個人のプライバシーの扉を開くマスターキーが作られて、個人には自分や家族のマスターキーを守る術が無いということは、ものすごく恐ろしいことではないか。

 

 マイナンバーは、基本的に一生変わらず消えない背番号が全国民に強制され、それを行政と民間が共通して利用する制度である。共通番号制度の先輩であるアメリカやカナダでは、成りすまし犯罪の被害が深刻で社会問題化し、分野別の個別番号制度に舵を切り直している。イギリスでは一旦導入したが、人権侵害として数年で廃止している。

日本においては適切に管理するから安全だなどという宣伝は、各種パスワードを頻繁に変えることが推奨される時代に、素人目にもウソとしか思えない。原発再稼働の新たな安全神話と同じく根拠の無いごまかしであり、破滅的な負の遺産になる恐怖を感じる。

 

 マイナンバー成立の国会審議では施行後3年間の状況を慎重に見るとしていたが、施行されてもいないのに利用拡大の具体的検討がされ、年金情報の流出が無ければ6月に法改正が予定されていた。戸籍、パスポート、預金、医療介護健康情報、自動車登録などが揚げられ、ビッグデータとして商業利用する方策も盛り込まれている。

 

 マイナンバーの預金口座適用は税の不公平是正には不可欠だと喧伝されている。税の不公平が語られるとき「ク・ロ・ヨン」が持ち出される。国が所得を補足できる割合が、サラリーマン9割・自営業6割・農業4割で不公平だということである。国民の資金の流れが把握できないから不公平が生じており、脱税も把握できないので、不公平や脱税を無くすためには預金口座にマイナンバーを適用するということである。

 しかし、昔から「ク・ロ・ヨン」の議論はされているが、全ての取引や所得を把握しても不正な申告や不正受給を無くすのは困難だと政府自身が言っていたと記憶している。扶養控除の不正も持ち出されるが、扶養控除の適用手続きの厳格化や縮減或いは廃止を検討している一方で扶養控除の不正を持ち出す意味はどこにあるのか。

 不公平や脱税の対策としてどれほどの効果があるのかは、イメージだけ喧伝され、税収の増加額など具体的な効果が語られることはない。縦割行政を見直して制度を修正することで対応可能な部分も多いことが報道番組でも指摘されている。マイナンバーを預金口座に適用する目的が不公平や脱税の対策では無いことが見透かされ、弱い庶民だけが懐に手を突っ込まれる結果になり、公平になるはずも無いと思われる。

 利権とアメリカのための無駄な公共事業や軍備拡大などのために、莫大に膨れあがった国の借金の裏付けは国民の納める税金である。日銀が国債を買い支えるという禁じ手と、国民の大切な年金資産を株式市場に投入することでアベノミクスは維持されているが、出口が見えない危険な状況は続いていると思われる。万一国の借金の解消に迫られた時に危惧されるのが預金封鎖と預金元本への課税などだろう。預金封鎖を簡単にできるとも思えないが、実行する際には日本人の預金だけに絞らないと国際問題になるため、区別しておく必要がある。テレビの特番やドラマでも取り上げられ、財務大臣がシミュレーションを認めたという報道もあり、マイナンバーの預金口座適用の目的の一つだと思われる。

 また、資産課税を強化する議論が政府筋で行われているとの報道もされている。国民の金融資産を掌握して「公平な税制」と言って課税する意図は十分にあるものと思われ、そのための預金口座へのマイナンバーの適用だろう。そのとき狙い撃ちされるのは「対策」を考える余地のない普通の庶民だろう。

 

 医療健康情報へのマイナンバーの適用だが、予防接種から健診結果や診療情報といった高度なプライバシーが一元管理されるということである。国家が国民の健康権を擁護し健康向上を図ることと、健康情報を一元管理して無制限に利用することは全く別物である。

 所得と健康を紐付けたデータの商業的な利用価値は極めて高く、そのため経済界は諸手を挙げてマイナンバーを推進している。公的医療介護を縮小して市場化することと併せて、低金利と少子化で収益力が落ちている生保会社等とTPPで日本の保険市場を狙うアメリカにとって、喉から手が出るデータであろう。個人を特定できないデータとしての民間活用ということだが、「名簿屋」や犯罪組織等は複数のデータベースを名寄せして既に一定の個人情報をデータベース化しており、そのデータベースが量質ともに格段に強化されるという報道もある。マイナンバーが漏れれば簡単に名寄せでき、丸裸の個人情報が把握されてしまうという恐怖を感じる。

 そもそも健康情報と所得情報は、たとえ親しい間柄でも赤裸々にしたくないもので、個人の尊厳に深く関わる情報である。個人にとって最大のウィークポイントなり得る情報が本人や家族の同意も無く国家に筒抜けになり、それが勤め先に伝わることや広範に流出する可能性があるということは、職場での差別や悪徳商法や詐欺被害など非常に高いリスクを負い、安心して生活する根本が脅かされることになると思われる。

 また、国は国民に内緒で具体的個人を特定したデータとして使用可能であり、効率的な経済徴兵制には非常に有益なデータになる。既に貧困層をターゲットにした自衛隊勧誘はあからさまであり、奨学金の返済を滞納している人は自衛隊に入隊してもらうといった発言がされている。その先には教育の国家統制と相まった高度な健兵健民政策が待っている恐怖を感じる。

 

 マイナンバーは犯罪捜査で自由に使える。法律で定められた目的以外でマイナンバーを提供した場合は重い罰則が課されるが、「政令で定める公益上の必要」があれば捜査機関などに提供できるものとされている。公安調査庁が具体的な事件の捜査でなくても裁判所の令状もなしにマイナンバーを収集できるという報道もある。具体的な事件捜査でなくマイナンバーを収集する意図はどこにあるのか。暴力団やオウムなどもイメージされるが、基地反対の市民運動などが監視されていることも事実である。警察が共産党国会議員を盗聴した事実が裁判で明確になっている。捜査機関が制限なしにマイナンバーを収集でき、更に盗聴も自由に行えるということは、国家に異議を唱えるもの、唱える恐れのある人物はマークされる世の中になるということではないか。

 アベ政治は憲法を超えて有能な政治家が統治するという独裁の発想を強くしている。国民の情報は徹底して収集管理する一方で、国家の情報は秘密保護法で国民が近づくことすら排除する。そして国民の疑問やフラストレーションに対しては治安法制(盗聴法、共謀罪など)で蓋をする準備を進めていると思われる。

 国旗国歌法を思い出したい。国会審議では内心の自由は保障され義務づけも強制もしないと総理大臣が答弁していたが、今や国立大学にまで強制が及びつつある。安保法制が最たる物だが、法律に明記されない「歯止め」など「歯止め」にはなりえず、時の政府の判断で適用範囲も利用も際限なく拡大される恐怖を感じる。

 

 

 マイナンバーに感じる恐怖を雑記してきたが、これらが施行後すぐに具体的になるとは思っていない。しかし、一旦作られたインフラを元に戻すのは大変な苦労とコストを伴い、一旦流出した情報を回収消去することは不可能である。施行させないことが最善手であり、そもそもこのような仕組みを作ろうとするアベ政治を許してはならないと思う。

岡本 治好

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