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弁護士法人における出資社員による使用人兼務役員は認められるか

 税理士法人では以下の国税庁HPの照会事例にあるように出資社員による使用人兼務役員は認められていない。

 弁護士法人も税理士法人も合名会社を原型とするところは同じである。また、弁護士法人設立の手引きや税理士法人の手引きを比較しても共通するところが多いことも事実である。よって弁護士法人においても税理士法人の使用兼務役員と同様の取り扱いとなるのか、検証した。

 

 

【照会事例】

 A税理士法人は、社員の互選によって代表社員及び理事を選任し、当該代表社員(理事長)と理事を構成員とする理事会を設置し、当該理事会においてA税理士法人の経営に関する重要な事項(各社員の報酬額・定款事項・決算の作成等)の決定をすることを予定している。

 また、理事長及び理事以外の社員の一部を、従たる事務所の「所長」「部長」など、法人の機構上、使用人としての職制上の地位につかせることとしている。

 このようにA税理士法人が理事長及び理事を構成員とする理事会において法人の経営に関する重要な事項を決定している場合であっても、税理士法上、社員はすべて業務を執行する権限を有し義務を負うこととされていることから、理事長及び理事以外の社員も使用人兼務役員とはなれないのか。

 なお、この場合の理事長、理事及び理事会は、A税理士法人が任意に選任しているものであり、税理士法上の根拠のある地位ではない。

 

【回答要旨】

(結論)

 理事長及び理事をはじめとするA税理士法人すべての社員は、使用人兼務役員となることができない。

 

(理由)

1.税理士法人の社員に係る役員への該当性

 法人税法上の役員は、法人税法第2条15号の定義によれば「法人の取締役、執行役、会計参与、監査役、監事及び清算人並びにこれら以外の者で法人の経営に従事している者のうち法人の使用人(職制上使用人としての地位のみを有する者に限る。)以外の者とされている。

 上記を踏まえて税理士法人においては 

 

(1)社員は、すべて業務を執行する権利を有し、義務を負うこととされており、この社員の業務を執行する権限は、定款によっても制限することはできないこと。

(2)(1)の業務の執行とは、定款に定める業務のほか、税理士法人の経営に関する契約締結等の法律行為及び帳簿の作成、使用人の管理・監督等の事実行為も含まれること。

 

 要するに税理士法人の社員は、「職制上使用人としての地位のみを有する者」とはなり得ず、かつ、税理士法人の社員のすべてが、経営に関する法律行為を含む業務執行を行う者であり、法人の経営に従事しているものと認められるので、法人税法上の役員に該当するといっている。

 

(理由)

2.税理士法人の社員に係る使用人兼務役員への該当性

 

(1)法人税法上の使用人兼務役員とは、「役員(社長、理事長その他政令で定めるものを除く。)のうち、部長、課長その他法人の使用人としての職制上の地位を有し、かつ、常時使用人としての職務に従事するものをいう。」とされており、ここでいう「政令で定めるもの」とは、法人税法上、代表取締役、代表執行役、合名会社等の業務を執行する社員などのことをいう。すなわちこれら列挙された例示に当てはまるものは、使用人兼務役員になれないことになる。

 

(2)税理士法人の社員は、その権利義務について合名会社の社員と同様とされているが、合名会社の社員と異なり、業務を執行する権限を定款で制限できないとされているので、税理士法人の社員はすべて(1)に列挙されている合名会社の業務を執行する社員と同様に、業務執行を行うこととなる。

 

 要するに定款で業務執行を制限できないので税理士法人の社員は(1)の「法令で定めるもの」に列挙されていないものの、「法人の使用人としての職制上の地位を有し、かつ、常時使用人としての職務に従事するもの」に該当せず、使用人兼務役員になることができないといっている。

 

 以上が国税庁のHPの照会事例で税理士法人の社員が使用人兼務役員に該当しないとする理由である。

 国税庁の照会事例では税理士法人の社員が役員に該当する理由および使用人兼務役員に該当しない理由を社員が業務執行の権限を有するためと読み取ることができる。このことから弁護士法人では社員が業務執行の権限を有していないことが明らかであれば、使用人兼務役員に該当することができるといえる。

まず弁護士法及び税理士法に記載されている業務の執行について比較する。

 

〈税理士法〉

 第四十八条の十一(業務を執行する権限)

 税理士法人の社員は、すべて業務を執行する権利を有し、義務を負う。

 

〈弁護士法〉

 第三十条の十二(業務の執行)

 弁護士法人の社員は、定款で別段の定めがある場合を除き、すべて業務を執行する権利を有し、義務を負う。

 

 弁護士法人では業務の執行について定款において別段の定めをもうけることができると読み取れる。税理士法人は別段の定めの記載がないことから自動的に全社員が業務執行の権限を有すると解釈され役員に該当すると国税庁の照会事例ではされている。

 では、ここで弁護士法のいう別段の定めとは、どの範囲まで認められるのか、次は弁護士法人の手引きおよび税理士法人の手引きに記載されている文言で比較する。

 

〈税理士法人の手引き〉

 税理士法人の業務執行として

 税理士法人の社員は、すべて業務を執行する権利を有し、義務を負うこととされており、その権利義務を制限することはできません。したがって、社員の対外的な責任については無限連帯責任を負うこととされています。

 

〈弁護士法人設立の手引き〉

 業務執行に関する事項(7号)として

 社員がすべて業務を執行する権利を有し義務を負うこととなります。もし、業務執行の権利義務を有しない社員をおくときは、定款にその旨を定めることが必要です。また、社員弁護士は、各自代表が原則ですが、定款に代表権を有する者を定めることもできます。

 

 弁護士法の別段の定めの範囲には業務執行の権利義務を有する社員(業務執行社員)を限定できることが含まれ、合名会社、税理士法人と明らかに異なることが分かる。

弁護士法人の場合、定款において業務執行の権利義務を有しない社員を置く(業務執行社員を限定する。)旨の文言を記載したときは、その社員は使用人兼務役員となると考えられる。

 

【結論】

 税理士法人の社員が税法上の役員であるとの国税庁の解釈は、税法上限定列挙されておらず、そもそも拡大解釈ではないかと思っている。しかし、これまでみてきたとおり国税庁が主張する解釈を採用したとしても、先に述べた事項を定款に定めており、かつ、実質面においても定款に沿った運営が実施されている場合には、弁護士法人の業務執行社員以外の社員は税法上の使用人兼務役員として定められている「役員のうち職制上使用人としての地位を有し、かつ、常時使用人としての職務に従事するもの」に該当し得ると考える。

 

久保田 寛

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