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医療材料管理

 日本の医療、介護が局面を迎えていくなか、経営的に苦戦を強いられている法人も多いと思われます。それに対し、今回医療材料管理について考えますが、まずはなぜ医療材料にスポットを当てたのかを説明したいと思います。

 

 今後も厳しい報酬改悪が予測され、また包括払いによる診療報酬が拡大していく中でも健全な経営を行っていくには、収益確保への奮闘だけでなく、費用面の管理も重要となってきます。このとき、材料費は人件費についで費用に占める比率が高くなっています。もちろん、材料も人びとのいのちと健康を守るために必要なものですが、その中には十分な管理、分析ができておらず費用削減の余地を残しているものがあると考えられます。

 

 また、材料費の中でも医療材料は医薬品に比べコスト管理が遅れがちのようです。その理由は、品目数も多く切り替えも早い一方、医薬品は薬剤師を中心とした統一的管理がされることが多いのに対し、医療材料は発注、在庫管理、使用で携わる職員が異なる(例えば用度課、現場看護師、医師など)ため情報や管理が分断してしまっていることが一因としてあげられます。その例として、医療材料の定数配置を行っているものの管理が十分行き届かず、デッドストック等が危惧されるケースなどがあります。

 

 このように、医療材料は医療機関における重要性は高いもののデータ集約の困難もあり、十分な管理に至っていないところも多いという実態があります。しかし、逆にいえば医療材料管理に着手することで費用面の改善や、それに加え、例えば保険請求の充足や効率化といった医療機関全体の業務効率向上も期待されます。また、医療材料管理の向上は医療安全向上にもつながります。

 

 以上のような点から、今回は医療材料管理について、情報等の連携という観点で考察を行います。1、2では、それぞれ定数配置と特定保険医療材料を取り上げ、部署横断的な情報交流の重要性について説明をします。また、3では医療分野で今後さらなる導入促進が予想される共同購入について、参加組織間での情報交流の必要性を説明します。

 

 

1.定数配置における定数見直し

 

本項では、

 

(1)定数配置による効果

(2)定数配置での留意点

 1)デメリットの例

 2)デメリットの発生原因と定数見直しの必要性

(3)定数見直し実施における部署間連携の必要性

 

 について説明をしていきたいと思います。なお、定数配置には未開封時から医療機関在庫となる場合(買取)と開封時に初めて医療機関在庫になる場合(預託品)がありますが、今回は買取の場合について説明をしていきます。

 

(1)定数配置による効果

 

 定数配置では、まず各現場の活動実態に即して定数が決定され、その定数どおりに医療材料が配置されます。また、その後は、現場担当者が各材料に貼付されているカード等を回収に回すことでその材料が補充されます。既述のとおり、定数は活動実態に即して定められているため、この定数でカード運用をすれば欠品や期限切れによる廃棄は最小限に抑えられます。また、現場からすると、カード1枚で材料が補充されるため発注業務が効率化されます。

 

 このように、定数配置は欠品を発生させない在庫量を常時保管しつつ、過剰な在庫保有によるデッドストックを発生させないようにするなど効率的な在庫管理を行うことを目的としており、病院を中心に導入している医療機関も増えています。

 

(2)定数配置での留意点

 

 定数配置の留意点は「定数」を形骸化させないことにあります。しかしながら、適切な「定数」を維持できている医療機関は多くないのが実態のようです。では、「定数」が実際の必要数と乖離してしまった場合にどのようなデメリットが生じ得るでしょうか。

 

1)デメリットの例

 

 例えば、新材料へ切り替えたものの旧材料を定数から削除しなかったため同種同効品が2種類配置され、旧材料がデッドストックになっているような場合や、定数どおりにおくと過剰在庫になるため現場担当者がカードを回収に回すタイミングを見計らっているような場合が考えられます。

 前者の場合、旧材料は期限切れとして損失になる可能性があります。

 また、後者の場合は現場の判断で在庫管理されていますが、これは効率的在庫管理という趣旨を失っていますし、ほかの現場ではルーチン的にカードが循環し過剰のまま「定数」が常備され期限切れを起こしている可能性も考えられます。

 

2)デメリットの発生原因と定数見直しの必要性

 

 では、なぜ「定数」の形骸化が起こりえるのでしょうか。

 

 医療材料は比較的短期で品目が入れ替わり、また、患者構成の変化や診療単位の変更、医療構造転換によっても必要数は変化するので適切な「定数」は変動します。そのため、定期的に定数を見直す必要がありますが、先述のように、医療材料の管理が分断されがちなことで「定数」の管理責任が曖昧になっていることが考えられます。

 ですが、すでにお分かりのとおり、定数配置の要は適切な「定数」の設定にあるため、定数見直しは必要不可欠となります。

 

(3)定数見直し実施における部署間連携の必要性

 

 そこで、定数見直しにあたっては「定数」配置の管理責任の所在を明確化させる一方で、部署間の情報連携を密接にしていくことが重要になります。

 定数配置を行っている場合、用度課等が基礎となる定数情報と、あわせてカードの発注履歴や回転率等の情報を持っています。一方、各現場の必要在庫の実態に精通しているのは現場担当者であるため、定数見直しにあたって現場担当者の声を聞くことも適切な「定数」の決定には重要ですし、用度課と現場の信頼関係の構築にもつながります。そのため、用度課が現場へ定数見直しの声かけをし、その際に、在庫回転率等の情報も提供し、回転率の遅いものが結果的に期限切れや減耗による損失を生じさせている可能性があることを具体的に説明することが重要です。そういった事実が伝われば、現場担当者は改善意識を持って定数見直しに取り組まれることが期待されます。

 また、日常的にも、用度課は定数リストを各現場に配布したり定数見直しの必要がないか質問したりするなどして現場とコミュニケーションをとることも重要です。こうすることで、現場の在庫管理意識が高まるとともに、用度課と現場の信頼関係が築かれます。

 

 このように、部署を越えて医療材料の定数配置を院所全体で管理していけるような職員意識の養成と、機動的な定数見直しが行える連携関係の構築が実効性のある定数配置の要になります。

 

2.償還材料の保険償還と購入価の検証

 

 本項では、

 

(1)償還材料の特徴

(2)保険請求の留意点

 1)請求点検の必要性

 2)請求点検における情報連携の有用性

(3)購入価検証における医師等との意見交換の必要性

 

 について説明をしていきたいと思います。

 

(1)償還材料の特徴

 

 医療材料は保険償還のできる特定保険医療材料(償還材料)と保険償還のない非償還材料に分けられます。償還材料は保険償還が可能であるとともに、それ自体高額なものが多く、請求管理と費用管理が重要になります。

 

(2)保険請求の留意点

 

1)請求点検の必要性

 

 上述のとおり、償還材料は保険請求漏れがないかの管理が重要ですが、手術室や内視鏡室といった部署では事後的に電子カルテへ入力を行うことも多く、請求漏れが生じやすくなるという現場実態もあるようです。しかしながら、請求漏れはそのまま医療機関の損失に直結するためチェック体制の構築が必要です。

 

2)請求点検における情報連携の有用性

 

 そこで点検方法として考えられるのが、実際に診療を行う診療者と医療材料の発注、納品管理を行う用度課等と保険請求を行う医事課での情報連携です。

 具体的には、診療者から用度課へ集約される発注依頼や納品書に基づいて把握される償還材料の使用状況と、診療者の報告により医事課で把握している使用量の照合点検です。両者のデータを利用することで一定の牽制が働き、保険請求精度の向上につながります。業務分掌状況やデータ管理状況などを踏まえたうえ、効率的、効果的な情報連携の仕組みを構築していくことが、償還材料の有効な管理方法として期待されます。

 

 なお、在庫システム、電子カルテなどで材料コードを統一するなどして効率的なデータ照合を可能にする運用上の工夫も考えられます。

 

(3)購入価検証における医師等との意見交換の必要性

 

 次に費用面ですが、償還材料は基準材料価格で償還されるため、償還価格に対する購入価の妥当性も検証する必要があります。とくに手術材料などは金額的に高額なため購入価の検証は経営的に大きな意義があります。

 

 ただし、その選定は専門性も高く、また医療の品質維持も不可欠であることから単純に安価なものへ切り替える訳にはいきません。これについては医師等も交え、丁寧な分析、議論を行うことが重要です。

 

3.医療材料の共同購入

 

 本項では、

 

(1)共同購入の概要と効果

(2)共同購入での留意点

 1)事務局機能の形成

 2)事務局組織への情報集約の必要性

 3)品目選定における意見交換の重要性

 

 について説明をしていきたいと思います。

 

(1)共同購入の概要と効果

 

 医療材料のマネジメント手法として複数の医療機関による共同購入が注目を集めています。共同購入は、経営主体が同一である医療機関、あるいは経営主体を異にしていても連携のある医療機関などが共同することで分散している力(購入量や組織力)を集約し、価格交渉力を高めることが目的です。

 

 医療材料の価格を抑える点では非常に有効な取り組みで、現在も全国規模の病院グループや連携関係を持つ医療機関が共同購入を実施し、成果を上げています。

 

(2)共同購入での留意点

 

1)事務局機能の形成

 

 共同購入はスケールメリットによる価格交渉力に優位性があるため、購買量の管理が重要になってきます。その点において、まずは共同する医療機関の購買データを集約、分析し、それに基づきメーカーや卸と価格交渉を行う事務局機能を持った組織が必要不可欠です。共同形態(グループ関係にある医療機関なのかグループ外なのか等)によって組織形成の仕方は変わってくると思いますが、この機能が曖昧になってしまうと本来期待していた効果は得られなくなってしまいます。

 

2)事務局組織への情報集約の必要性

 

 事務局機能が確立されたら、共同購入に参加する医療機関は購買データを事務局組織に集約することが重要です。これにより、事務局組織で品目ごとの購入量が把握できるようになるとともに、医療機関ごとで異なるメーカーの同種同効品を使っている場合に品目の絞り込みの検討が可能になるからです。

 そのため、医療機関はたとえ特定患者のみの特殊な品目と思われる場合でも事務局組織へ購買要望、あるいは購買状況を情報共有し、共同購入扱いにできないか、あるいは同種同効品ですでに共同購入品目となっているものがないかといった検証を行うことがより共同購入の実効性を高めることになります。

 

3)品目選定における意見交換の重要性

 

 同種同効品の選定を進めることでスケールメリットは向上します。これについて、マスクや手袋等の絞り込みは比較的容易に行えるようですが、手術室や循環器、整形といった分野は特殊性や専門性が高いことから絞り込みのハードルが高くなります。しかしながら、こういった分野の医療材料は高額なものが多く、価格交渉で大きな効果を期待できますので、むしろこれらの共同購入を積極的に検討することが求められます。

 ただし、この分野は専門性も高く、医療安全面への配慮も不可欠であることから医師、看護師、技師等との意見交換の場も設けるなどして広く情報の共有や議論を行い、共同購入の継続的発展へつなげていくことが重要です。

 また、事務局組織を中心とした医療機関同士での意見交換により、費用面も考慮しつつより安全性の高い医療材料が選定されることも期待されます。

 

 

 

 以上、医療材料管理として3つの項目を紹介しました。それぞれポイントは記載しましたが、最後に医療材料に関する情報共有について触れたいと思います。

 

 医療材料は取り扱う職員(3では組織)が複数にまたがるため、品目の選定から発注、使用や保険請求といった流れが分断されがちなところに管理の難しさがあります。一方、医療材料はいたる現場に配置され、品目数も多いことからこれを用度課だけ、あるいは現場職員だけで管理することは現実的ではありません。また、用度課のもつ発注や納品、払出といった情報は用度課の在庫、物流管理のためだけでなく、保険請求管理や共同購入を行ううえでの情報としても有用です。

 

 医療介護分野が今後さらに厳しい情勢に曝されていくなかで、医療材料マネジメントや保険請求精度向上のために増員するといったことが容易にはできないジレンマもあります。このような現状に対し、すでに述べてきたように医療機関内、あるいは医療機関同士での情報共有が重要になっていくと考えます。これは、情報共有することで管理責任を曖昧にさせるという意味ではなく、たとえば在庫管理であれば用度課、保険請求であれば医事課といったように責任部署は明確にしつつ、その責任をそれぞれが全うするために部署や職種といった垣根を越えてコミュニケーションを図ることが最終的にはコスト面や業務効率面、医療安全面の向上で大きな役割を果たすということです。

 

 これは管理上の技術論というより組織づくりに関わることですので具体的な方法論を述べることはできませんが、この点を本稿のまとめとして述べさせて頂きます。

 

(田中 千亜希)

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