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医療法人における「分割」制度の新設とその概要

 2015年9月に医療法の一部が改定され、従来は制度化されていなかった医療法人における法人「分割」が新設された。従来も「事業譲渡」による実質的な法人分割は可能であったが、これによると病院等の廃止・開設の手続きや税務上の課題など、煩雑な手続きや諸課題を要することから、「分割」の制度化により従来と比べて医療法人の分割が実施しやすくなるものと考えられる。(ただし、持ち分あり医療法人は今回の医療法による「分割」の対象外。)

 今回は、医療法人の「分割」制度の概要と税務上の取り扱い、その活用方法について検討していく。なお、2015年9月の医療法改定自体は国会で可決されたものの、同法の施行日は公布日から1年または2年以内に政令で定めることとされている(「分割」については1年以内)。よって、現時点ではまだ詳細が決定されていないものも含まれている点に注意していただきたい。

 

 

1.医療法における「分割」の概要

 

 医療法(医療法人)における「分割」は、基本的には会社法(株式会社など)の「分割」とほぼ同様の内容となっている。むしろ、持ち分なし医療法人には株式会社と異なり株主や持ち分という概念が存在しないため、仕組みとしては医療法人の「分割」の方がシンプルであるともいえる。

 「分割」には、「吸収分割」「新設分割」の2パターンがあり、いずれかを選択することになる。文字どおり、「吸収分割」とは既存の医療法人に資産・負債を移転する方法であり、「新設分割」とは新規に設立する医療法人に資産・負債を移転する方法である。なお、いずれの方法も以下のような要件や手続きが必要となる。

 

○社団:総社員の同意,財団:理事の2/3以上の同意

○都道府県知事の認可

○財産目録および貸借対照表の作成

○債権者保護手続き(2ヶ月以上)

○分割契約または分割計画にもとづく権利義務の承継

○登記

 

 

2.医療法人「分割」の税務上の取り扱い

 

 医療法人の「分割」にかかる税務上の取り扱いについても、株式会社などと同様に「適格分割」を認めることが、医療法改定に先駆けて2015年度税制改正大綱に盛り込まれている。

「適格分割」とは、一定の要件を満たせば資産等を簿価で分割継承法人に移転することができる制度であり、移転する資産に含み益が生じていてもこれに対する法人税課税が繰り延べられる(分割時点で課税されない)仕組みである。従来の「事業譲渡」による実質的分割では、形式上はあくまで資産等の譲渡に該当するため、時価により資産等を移転する(含み益には法人税が課税される)ことが原則であったが、「適格分割」であれば簿価でそのまま引き継げるため分割時の課税関係は生じない。また、資産移転に関する消費税や不動産取得税も発生しない。こうしたことから、税務上の観点からも従来よりも医療法人の「分割」が実施しやすくなるといえる。

「適格分割」に該当するための要件は下記のとおりである。

 

○分割事業が分割継承法人の事業と関連していること。(医療法人の分割においては当然該当する。)

○事業規模(売上金額、従業員数)がおおむね5倍以内であること。

  または、

 法人の役員が引き継がれること。

○分割事業にかかる主要な資産・負債が引き継がれること。

○分割事業に従事していた従業者のおおむね80%が引き継がれると見込まれていること。

○分割事業が分割継承法人でも継続して営まれると見込まれていること。

※なお、株式会社等の判定要件にある取得株式継続保有に関する要件は、医療法人の「適格分割」からは除かれる。

 

 みていただいてわかるとおり、私どもが関与するような医療法人で想定される場合の「分割」については上記要件を満たすことはそれほど困難ではないと考えられる。よって、基本的には「適格分割」となり、税務上の不利益は生じないものと思われる。

 

 

3.医療法人「分割」の活用方法の検討

 

 「地域包括ケア」「地域医療連携」などが叫ばれているなか、基本的に法人規模を縮小させる医療法人の「分割」は、それほど需要が高いとは思われない。それでも税務上の不利益があまり生じない「適格合併」によれば、以下のような場合にこれを活用し得ることが考えられる。

 

・複数の都道府県にまたがって病院や診療所等の事業所を有しており、社会医療法人の要件をすべての都道府県で満たせない場合に、法人を「分割」することで社会医療法人化の可能性がでてくる。

・「新設分割」にあたっては、単に1つの法人を2法人に分割できるだけでなく、2つ以上の法人の一部事業を分割して新設法人に承継させることも可能である。そのため、例えば複数の医療法人において、病院や診療所など医療機能に応じた法人再編を図るといったことも可能となる。

 

 今後さらに大きく変化していくであろう医療情勢のなかで、法人再編なども含めて単一法人のみの枠を超えたより大きな展開が医療経営上も求められてくることは間違いない。

 医療法人の「合併」についても、すでに社団・財団といった法人類型を問わない法人合併が認められているが、今回新設された「分割」制度と併せて今後の医療における組織再編制度の活用方法や動向を注意深く検討していくことが望まれる。

 

 

4.今後の課題等

 

(1) 改定医療法上で、「社会医療法人その他の厚生労働省令で定める」医療法人は「分割」の対象外とされている。厚労省令はまだ明示されていないが、現時点の厚労省発表資料では、税制上の観点から特定医療法人も「分割」の対象外として挙げられている。

よって、特定医療法人が「分割」を実施するためには、いったん適用取りやめとするなど特別な対応が必要になる可能性がある。医療法の施行に併せて、詳細が明らかになるものと思われるが、導入当初に何らかの緩和措置が図られることも考えられる。

 

(2) 医療法人の「分割」については、「地域医療連携推進法人制度」などと同様に、現政権が進める「日本再興戦略」から発生している。この点から考えると、「合併」「分割」をより容易にすることで、非営利であるはずの医療機関にも営利企業のようなM&Aの考え方を持ち込み、不採算事業は切捨てていくといった「医療の営利化」に活用され得る点も押さえておく必要があると思われる。

  また、「地域医療連携推進法人制度」と併せたトップダウン式の組織再編により、国や地方自治体に「都合のよい」機能をそれぞれの法人に押し付けられる危険性もある。

 

 以上のような課題等についても充分注視しながら、非営利・協同の医療機関における「分割」あるいは「合併」制度の活用方法を検討していくことが、今後求められているといえるのではないだろうか。

 

(千葉 啓)

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