国境を越えた役務の提供に対する消費税課税の見直し(消費税リバースチャージ方式)
2015年10月1日以後に消費税の課税の対象となる取引のうちリバースチャージ方式および国外事業者申告納税方式による消費税額計算が適用されるものがある。
これまで消費税は預かった消費税から支払った消費税の差額を納税義務のある事業者が納めるものであったが、リバースチャージ方式による消費税額計算によると預かった側ではなく支払った側が納税義務を負うことになる。
一方の国外事業者申告納税方式とは、その言葉とおり国外事業者が納税義務を負うといったものであるが、この方式は次の機会にでも紹介させていただくとする。 国境を越えた等の文言が含まれていることもあって、私共が関与するクライアントには無関係のように思われるが、この間リバースチャージ方式について問い合わせがあったこともあり紹介させていただく。
【制度の概要】
1.課税方式の見直し
消費税は、通常資産の譲渡等を行った事業者が申告・納税を行うとされていたが、「事業者向け電気通信利用役務の提供」はリバースチャージ方式導入により、国外事業者から資産の譲渡等(役務の提供)を受けた国内事業者が申告・納税を行うとされた。
簡単にいうと「事業者向け電気通信利用役務の提供を受けたこと」を「特定課税仕入れ」といい、当該特定課税仕入れについて消費税を納める義務が生じる。
2.電気通信利用役務の提供
電気通信回線を介して行われる著作物の提供等をいい、インターネットを介した電子書籍の配信、音楽・映像を視聴させる役務の提供をいう。
私共が関与するクライアントであれば、具体的には海外の医学文献等をインターネットを介して閲覧・取得できる契約形態のものが該当する。
3.事業者向けである旨の表示義務
事業者向け電気通信利用役務の提供を行う国外事業者は、あらかじめ当該役務の提供を受ける国内事業者に対して消費税を納める義務がある旨の表示を行わなければならない。
私が入手している情報によると、相手方から「リバースチャージ方式に該当する取引である旨」の通知が送られてくることが一般的なようである。なお、通知がなくても納税義務が消滅することはないとされているが、実務上通知がなければ対応は不可能であろう。
4.その他留意点等
(1)特定課税仕入れに関する経過措置
特定課税仕入れを行った課税期間の課税売上割合が95%以上である場合には、当該課税期間においておこなった特定課税仕入れはなかったものとする。要するに課税売上と課税仕入れがほぼ同額となるため、とりあえずは考慮しなくてよいということと思われる。
(2)課税売上割合の計算
納税義務の有無を判定する際の課税売上高には、特定課税仕入れの対価の額は含めない。
(3)簡易課税制度
簡易課税制度については、該当課税期間において行った特定課税仕入れはなかったものとする。要するに簡易課税制度を採用している場合は、特定課税仕入れに係る金額を課税売上に計上しなくてよい。
(4)代理店経由の場合
国内の代理店経由により国外事業者が行う事業者向け電気通信利用役務の提供を受けた場合も、リバースチャージ方式によることになる。実務上は代理店経由の取引がほとんであろう。
【実務上の処理】
国外事業者から事業者向け電気通信利用役務の提供を受けた場合の仕訳(税抜処理を前提)
取引価格:1,000 課税売上割合:10% 消費税率:8%
〈従来〉
・取引時
(販管費)1,000 / (現預金)1,000
*不課税取引のため、消費税はなし。
〈改正後〉
・取引時
(販管費)1,000 / (現預金)1,000
(仮払消費税)80 / (預り消費税)80
・決算等消費税精算時
(預り消費税)80 / (仮払消費税)8
/ (未払消費税)72
(控除対象外消費税)72 /(仮払消費税)72
・消費税納付時
(未払消費税)72 / (現預金)72
*消費税の最終負担者および納税者は役務の提供を受けた国内事業者となる。
これまで海外からのインターネット等を通じた電子書籍・音楽・広告の配信やクラウドサービス等の役務の提供は国外取引に該当し消費税が課されていなかった。一方で同一の役務の提供であっても国内からの役務の提供にあっては消費税が課されていた。そこで、国内外の競争環境の公平性・中立性を確保する観点から海外からのインターネット等を通じた役務の提供に消費税を課するとしたことがそもそもこの制度が導入された経緯である。
しかし、課税売上割合が95%以上である事業者は当分の間その課税取引はなかった(消費税申告対象外)ものとされ、消費税負担を強いられるのは課税売上割合が95%に満たない事業者となる。課税売上割合というものは、簡単にいうと売上のうち消費税の課税取引と非課税取引のうち課税取引の占める割合をいうものであり、課税対応部分の支払った消費税だけが控除でき、残りはその事業者が負担するといったものである。消費税の非課税とされる取引は社会政策的見地からの配慮によるものと取引の性格にかんがみたものとされる。非営利事業者は社会政策的配慮により非課税とされるケースがほとんどであり、必然的に課税売上割合は低くなり、リバースチャージ方式によるとそのような非営利事業者が消費税の負担を強いられることになる。価格に転嫁することが難しいことが多い非営利事業者側からみると消費税の非課税は非課税にあらずといわれ、ここでも非課税取引を占める割合が高い事業者ほど消費税の負担を強いられる現在の消費税制度の矛盾さを露呈したといえる。
消費税本法の改正であるが、とりあえずの経過措置による対応もあり、今後の動向を注視しなければならない。
久保田 寛