「社会福祉充実計画」の概要
社会福祉法が改定され、2017年4月1日より施行されることとなっている。これにより社会福祉法人の組織形態なども大きく変わることになり、その対応に追われている法人も多いと思われる。今回は、改定社会福祉法でのもうひとつの大きな改定内容である「社会福祉充実計画」について概要を解説する。
1.「社会福祉充実計画」の概要
今回の改定社会福祉法で新たに制度化された「社会福祉充実計画」とは、社会福祉法人が「利益を貯め込み過ぎ」という政府厚労省や財務省等の調査報告を受け、社会福祉法人の「適正な蓄積利益」を維持したうえで、これを上回る部分を社会福祉事業等へ再投資させようというものである。
もちろん、これは政府側の論理であり、私どもが関与するような大多数の社会福祉法人は不相当に低く抑えられている介護報酬などのなかで一生懸命奮闘して事業活動をおこなっているのであり、「利益を貯め込み過ぎ」などという意見は全くなじまないものである。この点については、過去に当ホームページ上に記事を掲載しているので『社会福祉法人は「利益」をため込みすぎているのか?』をご参照いただきたい。
「社会福祉充実計画」の具体的な内容は、この間、厚労省の社会保障審議会や財務規律検討会等で議論・検討されている。下記の算定方法により算出された社会福祉充実財産につき、各社会福祉法人が社会福祉充実計画を策定し、既存事業や新たな事業(社会福祉事業や公益事業)へ再投資する仕組みとなっている。
社会福祉充実財産 = 活用可能な財産(1) - 控除対象財産(2)-a,b,c
(1) 資産-負債-基本金-国庫補助金等特別積立金
(2)-a 社会福祉法にもとづく事業に使用している不動産等
(2)-b 再生産に必要な財産 (将来の建替や大規模修繕、設備等の更新に必要な費用)
(2)-c 運転資金 (年間事業活動支出の3ヶ月分)
この算定の結果、社会福祉充実財産が生じた場合に、原則5ヵ年の社会福祉充実計画を策定し、社会福祉事業等へ計画的に支出をおこなっていくことになる。ちなみに、2016年10月21日におこなわれた財務規律検討の資料では、具体的な事業計画の例として「職員育成事業(職員の研修受講費用補助)」や「単身高齢者のくらし安心事業(要介護認定を受けていない単身高齢者の日常生活の見守りや相談支援、生活援助など)」が挙げられている。
2.当該制度の影響
社会福祉充実財産の計算式をみていただくとわかるとおり、当該財産が多額に残るのは、運転資金を超える多額の現預金を保有するケースや遊休不動産等を多く保有しているケースなどが想定される。よって、私どもが関与する多く社会福祉法人においてほぼ影響はなく、特段課題は生じないものと推察される。
また、仮に社会福祉充実財産が一定額残ったとしても、現状で社会福祉充実計画において例示されている支出内容は比較的対象となる範囲が広く考えられているように見受けられるため、法人にとってそれほど制約になるようには思われない。
ただし、一方でこの間の議論のなかで、控除対象財産「運転資金」(上記(2)-c)の範囲が変更になるなど、公開されている内容にも変更点がみられる。施設等の不動産を保有していない社会福祉法人で、将来の後継者対策や新たな事業展開に備えて資金を留保しているような場合は、社会福祉充実財産が結果的に高く算定されることも想定される。そうした点で、今後の厚労省等の議論内容には注意が必要である。
いずれにしても、最初に述べたとおり、社会福法人全体が不当な内部留保を貯め込んでいるなどという事実は到底実態と整合しないものであり、本来的には社会福祉充実計画に示されているような内容は一社会福祉法人に実施させるのではなく、公的な社会保障費として手当てすべきものである。
こうした考え方の根底には「新自由主義」「イコールフッティング」が根強くあり、医療・介護・福祉といった分野を市場競争と同一の考え方で括ろうとしている。当面の制度への対応策は考慮しつつ、こうした政策からの転換が根本的には求められているといえよう。
(参考資料)
厚生労働省ホームページ 「第5回社会福祉法人の財務規律の向上に係る検討会」より
・「社会福祉充実計画」について
・「控除対象財産」について
(千葉 啓)