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労働保険・社会保険

 7月10日は労働保険の申告書や社会保険の算定基礎届などの提出期限です。とくに小さい職場で事務を一手に担当されている方は「アルバイトや休職中の職員は含めるんだっけ?」、「通勤手当や時間外手当の取り扱いは?」と頭を悩ませることも多いのではないでしょうか。参考に労働保険申告書と社会保険算定基礎届を作成する際のポイントをまとめました。なお、今回は実務面での要点を解説しますが、社会保険等はこの間いくつか変更が行われています。正確な実務を行っていただくためにこういった変更を把握することは重要ですが、変更の背景には現在の情勢が色濃く出ています。そういった点までおさえていただくことが大切です。

 

1.労働保険

(1)労働保険の概要

 労災保険と雇用保険を総称して労働保険といいます。毎年7月に、前年度(前年4月から当年3月まで)の保険料確定と、当年度(当年4月から翌年3月まで)の保険料の概算計算を行い、納付します。保険料は、前年度の賃金を集計した算定基礎額に基づいて計算されます。

 

(2)算定基礎額を計算するうえでのポイント

a.だれが対象になるのか

 アルバイト給与などについて、労災保険と雇用保険で対象が異なるので注意が必要です。

 

<労災保険>

 常用、日雇、パート、アルバイト等、名称や雇用形態にかかわらず、労働の対償として賃金を受けるすべての者が対象となります。

<雇用保険>

 常用、パート、アルバイト等、名称や雇用形態にかかわらず

・1週間の所定労働時間が20時間以上であり、

・31日以上の雇用見込みがある

場合には、原則として被保険者となります(ただし、学生は除く)。

 

 以上のように、労災保険はすべての人が対象になるのに対し、雇用保険は一定の雇用実績のある(見込まれる)人のみが対象となります。なお、平成31年度まで、高年齢労働者(保険年度初日=4月1日において満64歳以上の高年齢者)は雇用保険料が免除されます。

 

b.集計の対象になる賃金とは

 a.と異なり、労災保険と雇用保険で違いはなく、名称のいかんを問わず、労働の対償として事業主が労働者に支払うすべてのものが賃金として取り扱われます。そのため、給与のほか賞与、通勤手当、時間外手当、扶養手当、技能手当などは労働の対償として集計の対象となります。一方、慶弔見舞金や出張旅費(実費弁償と考えられるもの)など労働の対償にあたらないものは賃金には含まれません。

c.保険料の納付

 申告書を作成し、納付額が算定されたら7月10日までに納付を行います。ただし、一定の要件を満たす場合、申告書において延納の申請をすることで3回(7月、10月、1月)にわけて納付することができます。

 

2.社会保険

(1)社会保険の概要

 医療保険、年金保険、介護保険の総称であり、毎年7月に、4月、5月、6月の3ヶ月間の報酬金額をもとにした標準報酬月額を算定し、算定基礎届を提出します。この算定基礎届に基づき、1年間の保険料が決定されます。

 

(2)算定基礎届を記入するうえでのポイント

a.だれが対象になるのか

 正職員のほか、パート等で1週の所定労働時間および1月の所定労働日数が常時雇用者の4分の3以上となる者(ただし、学生は除く)が被保険者となります。また、平成28年10月1日から社会保険の適用が順次拡大されており、4分の3未満であっても常時501人以上の企業(特定適用事業所)に勤めており、週に20時間以上勤務するなどの一定の要件を満たす短時間労働者も被保険者に該当することになりました。

 

b.標準報酬月額(対象月の報酬平均額)の算定方法

 基本的に4月から6月に支払った報酬の平均額を算定します。ただし、4月から6月のうちに報酬の支払い対象となった日数(支払基礎日数)が17日未満の月がある場合には平均額の計算から除外します。また、パート等の短時間就労者については、月の勤務日数によって算定方法が異なるので注意が必要です。

 

<短時間就労者の算定方法>

・4月から6月のうち、支払基礎日数が17日以上の月が1ヶ月以上ある場合

 該当月の報酬額を算定の対象とし、該当月の報酬総額を対象月数で割って平均を算定します。

・4月から6月の支払基礎日数がいずれも17日未満の場合

 3ヶ月のうち、支払基礎日数が15日以上17日未満の月の報酬総額の平均を算定します。

・4月から6月の支払基礎日数がいずれも15日未満の場合

 従前の標準報酬月額が引き継がれることになります。休職中の職員などもこのケースに該当します。

 

c.報酬額の対象は

 労働保険と同じように、名称を問わず、労働者が労働の対償として受けるすべてのものを含みます。具体的には基本給、通勤手当、時間外手当、扶養手当、技能手当などが対象となり、慶弔見舞金や退職金、出張旅費などは対象となりません。ただし、賞与は別途保険料を算定、納付することから算定基礎届においては集計の対象とはなりません。この点が、労働保険との大きな違いです。

 

d.算定基礎届の提出および保険料の決定

 算定基礎届は7月10日までに提出します。その後、保険料の決定通知が届き、原則、ここで通知された保険料が9月から翌年8月まで固定して適用されることになります。

 

 ここまでで労働保険と社会保険のポイントを紹介しました。一方、冒頭でも触れましたが、高齢者の雇用拡大といった情勢を反映して、あらたに平成29年1月1日以降、65歳以上の労働者も雇用保険の適用対象になる(ただし、平成31年まで高年齢労働者の雇用保険は免除)などの変更が行われています。また、社会保険の適用対象も順次拡大されています。これらは、雇用や賃金の改善がなされないまま国民に負担ばかりを強いる悪政のあらわれにほかなりません。

労働保険や社会保険など労務での業務誤りや遅滞は労働者に不利益をもたらす可能性もあります。そのため、内容の変更等は随時キャッチアップしながら、いまの政治に対し雇用や賃金条件の改善を訴えていくことが求められます。

 

(田中 千亜希)

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