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国際観光旅客税の創設

 先の年度末、混乱する国会において平成30年税制改正が成立しました。 

 今年度の改正には、新たな税の創設が二つ(そのうち一つは31年度税制改正)、所得再分配機能の回復の観点からと給与所得控除額や年金等控除額から基礎控除額への振替など、年末調整で所得税の納税を完結しているサラリーマンなども注視されたいもの含まれています。また、法人においては、生産性向上のための一定の設備や給与支給を増加させてた場合の所得拡大促進に対する法人税の減税、固定資産税の課税標準の減額などが適用できることとなりました。その他、税務手続の電子化の推進を求めるための改正など今後の実務において対応を求められるものもあります。

 ここでは創設された税と給与所得控除額等の改正についてふれてみます。

 

◆国際観光旅客税(仮称 通称:出国税)◆

 国際観光旅客税は、創設の趣旨として、「観光立国実現に向けた観光基盤の拡充・強化を図る観点から観光促進のための税として、わが国からの出国に広く薄く負担を求める」としています。東京オリンピックに向けた観光整備に必要な財源を確保するための税金と言われていますが、本当にその通りに使われるのか、関連づけて必要のないことに使われるのではないか、そんな疑問符がつく新税です。

 この税金は、平成31(2019)年1月7日以後に日本から出国する日本人、外国人が納税義務者となり、国内運送事業者・国外運送事業者が出国1回につき1,000円を出国者から特別徴収し、国に納付する仕組みとしています。例えば、飛行機で海外に出国する旅行者等は、旅行会社に飛行機に搭乗するまでに一回1,000円を徴収されます。おそらく、航空券を購入する際に航空会社が本来の航空券代と一緒に税金を預かる、又は旅行会社の旅行代金と一緒に税金を預かり、旅行者等が出国手続を行うと航空会社等に源泉徴収義務が生じ、航空会社等が一定の時期に国に納税して完結する仕組みが想像されます。

 出国する者は、旅行代金の一部としての認識になり、自分達が納税者であるという意識を持たないこともあり得ます。また諸外国においても同じよう税があり、海外へ頻繁に出かける方には抵抗が少ないとも言われています。そのようにして、年の出国者約40万人、年間約400億円もの税金が国に集まるとも言われています。私たちが海外の文化にふれ学ぶように、外国の方々が訪日されて日本の文化にふれる権利は当然にあるでしょう。観光整備は生活している私たちにも便利になることもたくさんあるのかもしれませんが、今本当に進めるべきことなのか疑問を持たずにはいられません。人々が安心して暮せる場所と制度があり、人々がいきいきと暮らしているからこそ、外国の方々が日本を素晴らしい国だと感じるのではないでしょうか。

 

 ◆所得税における給与所得の所得控除額と基礎控除額◆

 今年の改正は、もう一つ身近なものとして、平成32年分から給与所得者の給与所得控除額を10万円引き下げ、その10万円は基礎控除へ振り替えることとなりました。ただし、年収850万円をこれる場合の給与所得控除額は195万円が上限額(22歳以下の扶養親族がいる場合や特別障害者の扶養親族がいる場合は、一定の調整所得控除あり)となり、所得税の負担が増えることとなります。これらの改正趣旨には「所得再分配機能の回復の観点」とあります。今まで最高税率の引き下げや有価証券の取引の譲渡益に対する減税など比較的富裕層に恩恵を与える改正ばかりしてきたツケを「年末調整」で年間の所得税の精算を完結できる納税意識が高くない人から確実に負担してもらう、私にはそう思えます。

 戦後、所得税法はすべて自ら所得を計算し申告書を提出、税金を納税する制度(申告納税制度)のみを採用する予定だったようです。しかし政府(大蔵省)は、給与所得に対する特別徴収制度と年末調整による税の完結を強く主張したそうです。今後増大する雇用契約での労働者を見越して、雇用主に源泉徴収義務を課し、労働者の所得税申告を無料で手伝わせ(年末調整)、漏れなく税金が国に集まるしくみがどうしても必要だったと言うことです。

 私は、この国で生きていくためには、誰もが生活を圧迫しない税負担は必要だと思います。自分が納めた税金が、となりにいる人と共に生活できるために使われる、必要としている人のために使われる、そのことが認識できてこそはじめて、私は気持ちよく税を支払うことができるように思います。

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