電子申告の義務化について
2020年度から一定の法人は「電子申告の義務化」により電子申告により法人税等の申告を実施しなければならなくなります。いくつかの法人で実際に電子申告の義務化の概要について、質問を受けたことがありましたので、以下に制度の概要等を簡単にまとめています。
1.制度の概要
2020年4月1日以降に開始する事業年度の開始日(3月31日決算法人であれば2020年4月1日時点)に出資金や資本金の額が1億円を超える法人は電子申告の義務化対象の法人となります。私どもが関与するクライアントで対象となる法人は生協形態における法人といえます。
その他対象手続等を以下に記載します。
・対象税目
法人税・地方法人税・消費税及び地方消費税
国税だけでなく、地方税の法人住民税及び法人事業税についても電子申告が義務化されます。
・対象手続
確定申告書、中間(予定)申告書、仮決算の中間申告書、修正申告書及び還付申告書
・対象書類
申告書及び申告書に添付すべきものとされている書類の全て
ただし、電気通信回線の故障、災害その他の理由によりe-Taxを使用することが困難であると認められる場合は、書面により申告書を提出することが一定の条件を前提に認められます。
・税務署に対する届出
電子申告の義務化の対象となる法人は税務署に対し、「e-Taxによる申告の特例に係る届出書」を 2020年4月1日以後最初に開始する事業年度(課税期間)開始の日以後1か月以内(2020年4月30日まで)に提出する必要があります。
2.電子申告義務化に伴う留意点
電子申告義務化に伴い、従来の手続や対応では認められないものも出てきます。そういった手続等における留意点は以下のとおりです。
・従来とおりの紙による確定申告書の提出
電子申告義務化対象法人が紙ベースにより確定申告書を税務署に期限内に提出しても、それは提出したとは認められません。この場合、無申告加算税等罰金の対象ともなってきます。
・勘定科目内訳明細書
勘定科目内訳明細書については、国税庁が指定している標準フォームに合わせて提出する必要があるので、従来の明細書をそのまま提出というわけにはいきません。国税庁のHPに掲載されているエクセルを基礎に作成加工等する必要があります。
・特別償却等に係る証明書等
特別償却等の適用を受けるために必要な証明書などは、PDF化し提出しなければなりません。この場合は、紙による提出も認められています。
・使用している税務申告ソフトでは対応していない別表
電子申告の義務化の対象法人は申告書だけではなく法人税法等において添付すべきこととされている書類も含めe-Taxにより提出する必要があり、使用している税務申告ソフトで対応していない別表がある場合(注)、こうした別表については国税庁が提供しているe-Taxソフトを利用するなどして提出する必要があります。
(注) 法人税等の申告に当たって、別表や添付書類のうち、e-Taxにより提出できない別表等については、PDF形式による提出も認めることとしています。
・税務署に対する届出
「e-Taxによる申告の特例に係る届出書」は、電子申告義務化対象法人のうち従来から電子申告を採用していた法人も当該届出書の提出が必要となります。また、当該届出書は2020年4月1日以降(2020年3月31日以前には提出できない)に提出できることになる点も留意が必要です。
・電子証明書の取得
法人が申告する場合、電子証明書を取得する必要があります。電子証明書は、本人であることを証明する役割のもので、インターネットを利用したデータのやりとりにおいて、免許証やパスポートのようなものといえます。
・勘定科目内訳明細書
勘定科目内訳明細書は国税庁HPに記載されている「標準フォーム」をCSVデータ形式等で保存し提出することになります。「標準フォーム」に対応していない科目明細だと、「標準フォーム」に金額を貼り付ける作業が必要になるので、「標準フォーム」に対応した市販ソフトを購入することも作業効率を図る1つの手段といえます。
3.最後に
電子申告の義務化は対象法人に一定対応等を要請する手続等も多分に含まれており、本来的には義務化とはせず、法人が自由に選択すべきものです。税務署側は「簡単」をうたい文句に電子申告を浸透させようとしていますが、実際は電子申告を開始するまでには相当な手間を要するということも明らかですし、電子申告もまだすべての書類を1つのデータで提出することができず、決して簡単といえるものではありません。また、e-Taxのセキュリティの安全性についてもどこまで確かなものかも判然としません。
制度上まだまだ不備がある電子申告の義務化ですが、法制度上義務化となれば、対象法人は対応していかなければならないことも事実です。これまでみてきたとおり非常に手間を要する部分もあるので、直前になって何も対応できていないということに陥ることがないよう事前準備を計画的におこない、税理士とも十分に議論検討のうえ電子申告義務化に備えていく必要もあるといえます。