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歯科診療所における貴金属管理の留意点

1.問題意識

 歯科診療所においては、技工室等での貴金属管理(特に高価品である金パラ等)と外注加工先と無償支給取引を行っている場合には無償支給材の管理が、内部統制上、非常に重要である。技工室の一般的な特徴として、少人数職場であり、定期的なローテーションは容易でなく、職能に特化した職場であり事務職等が介在することが少なく、内部牽制が効きにくい職場環境にあるといえる。また、高価品である金パラ等については、ネット上でも取引情報が溢れており、誰でも容易に転売できる取引市場があり、作業くずでさえ「塵も積もれば山となる」で転売目的になり得、横流し等の不適切事案の誘因になりかねないという潜在的なリスクがある。

 しかし、潜在的なリスクが高いにもかかわらず、歯科診療所における貴金属管理につき、一部では、十分な管理がなされていない状況が見受けられるため、貴金属管理の留意点をまとめたものである(以下では、貴金属の中でも取扱量が多く最も高価品である金パラを事例にしている)。

 

2.発注時の管理

 世界的な経済情勢に不確実性が増している中、金取引相場は変動幅が大きく、診療材料になる金パラといえども、発注時点により購入単価がその都度変動するという特徴がある。それゆえ、購入担当者(発注者)の判断により、金取引相場を見ながら「まとめ発注(大量購入)」する実務も散見されるが、在庫管理の観点からすれば、定数管理や発注点管理を徹底して、発注の判断に恣意性が混入しないようにしておくのが適当である。

定数管理や発注点管理が徹底されていれば、概ね「発注量=使用量」という定式が成り立ち、購入担当者(発注者)以外の第三者でも、発注及び請求書の内容を見ていれば、金パラの推定使用量を容易に把握することができ、場合によっては異常性があれば気付くきっかけにもなり得るのである。

また、歯科診療所における部署別の予算管理、当該事例では技工室での金パラ使用量(購入額)の予算管理が実践的に根付いて有効活用されているならば、予算差異の内容を分析することで、効果的な管理ができ、かつ経営的な視点でも有用な情報が得られるといえる。

 したがって、技工内容等金パラの使用見込みに応じて、その都度購入担当者(発注者)の発注判断が必要だとしても、定数管理や発注点管理を徹底することは可能であり、使用量の多寡により定数を増やす(減らす)あるいは発注頻度を増やす(減らす)ことで対応するのが理にかなった発注管理である。

 

3.歯科診療所内での在庫の管理

 金パラは高価品であり(3/31時点の取引相場:74,850円/袋)、通常の診療材料とは別に厳重保管すべきものである。金パラは、換金性が非常に高く、記念金貨と同様に現金等価物の性質を帯びているといえ、貨幣と同様に金庫で管理するのが適当である。

 金パラを金庫で管理する意味は、高価品である金パラの管理は職務分掌を行い、袋単位の金パラは現金等価物として経理担当もしくは事務長が管理し、加工する際に必要に応じて金庫から技工室に金パラ(袋単位)を払い出す(出庫する)ことで、厳重管理及び複数(分掌)管理ができるのである。なお、金パラを金庫で管理する以上、入出庫及び残高の管理簿を作成することが必須であり、金パラの保管だけを金庫で行えばいいということではない。

 次に、金庫から払い出された金パラは、技工作業の便宜上、技工室の施錠棚等で現物管理することになる。技工室での管理は、現物を厳重に保管するという現物管理も重要であるが、それ以上に使用量(加工量)管理が重要である。使用量(加工量)管理のポイントは、作業くずや作業ロス(紛失等も含む)が異常に発生していないかを検出できる仕組みがあることである。具体的には、技工内容に応じた標準使用量や実際使用量(加工毎に計測するのは実務上困難かもしれないが・・・)を記録して、金パラの入庫、使用量及び残高をグラム単位で在庫量を記帳し、定期的に金パラの残量の現物実査を実施し、異常なロスが発生していないか、作業くずによる在庫ロスが通常の範囲を超えていないかを確認することが最善である。

このように適切に使用量管理を徹底し、その管理状況の事跡で残っている限り、問題すら起こりえないのである。また、仮に、紛失事例でなかったとしても、異常なロスが発生している場合には、それは加工技術の問題であり、業務管理に資する情報も得られるのである。

 

4.歯科診療所外での在庫の管理

 自院の技工室で対応できない場合や自院に歯科技工士がいない場合は、外注加工先に技工委託することになる。外注委託する際、診療材料(金パラ)を無償支給する契約と、外注先が独自に金パラを調達する契約がある。金パラを無償支給する契約のメリットとデメリットは、以下の通りである。

(メリット)

 ・金パラを支給することで、金パラの品質管理が主体的に行える。

 ・無償支給することで、技術力のある零細業者とも取引が可能となる

 ・場合によっては、外注委託先より安価に仕入れることも可能

(デメリット)

 ・無償支給材の在庫管理が必要

 ・無償支給材も含め、在庫量が増える

 ・外注委託先での作業ロスは材料支給元が負担することになる

 ・大規模な外注先のほうが規模の利益を享受でき、安価に購入することが可能

 

 これら、メリット及びデメリットを勘案して外注先との契約を締結することなるが、それぞれの契約をした場合の管理上の留意点を記しておく。

 

⑴外注加工先に金パラを無償支給する場合

 金パラを無償支給した場合、外注先にある金パラは事業所の財産であり、在庫管理(外注先にある未使用在庫は事業所の在庫)やロス率管理(技工上の作業ロスは実質的には事業所の負担となる)が非常に重要になってくるが、外注先に任せきりになっているケースが多分に見受けられる。

 外注先への預け在庫とはいえ、事業所としての内部統制上、事業所の財産がどのように管理され、適切に使用されているかを確認、検証することが必要である。具体的には、加工物の納品の都度あるいは月次毎の請求時に詳細な使用量及び残高報告を求め、使用量に異常性がないかの確認及び無償支給した量と使用した量の整合性(理論的には、前月残+当月支給量-当月使用量=当月残となるはず)に問題がないかの検証をすることが必要である。

 また、当該無償支給材料は事業所の在庫(財産)であるので、決算期末における棚卸の際には、外注先から在庫量の報告を受けて、事業所の在庫として棚卸資産に計上する必要がある。

 

⑵外注加工先が独自に金パラを調達する場合

 外注加工先が金パラを調達、用意するということは、在庫管理の手間、在庫保有リスク、ロス管理及び材料の価格変動リスクはすべて外注先が負担するということであり、契約条件次第であるが、無償支給方式よりもトータルコストの削減及び管理に要する時間削減につなげることが可能であるといえる。但し、一方で、外注先が負担することになる上述した諸々の在庫リスクは、加工費に上乗せされるのが業界の取引習慣であることから、一律に功罪を言うことはできないが、留意点を理解したうえで判断されたい。

 

5.作業くずの管理

 技工室では金パラを使用して技工するため、作業くずと言えども換金可能性があり、管理を徹底しておく必要がある。作業くずの現物は集塵機等を使用して回収、保管されるのが通常であるが、管理上、重要なことは作業くずの標準的な発生量もしくは発生額を科学的、経験的に把握しておいて、実績と比較して異常値になっていないかを確認、検証することである。

 そのためには、作業くずの業者への回収(換金)依頼は、毎期定期的に行い、趨勢分析や比較分析できるように工夫することが必要である。また、作業くずの売却収入についても予算管理に反映しておくとなおさら効果的な管理となり得る。

 

6.撤去冠の管理について

 金パラの現物管理(袋単位、グラム単位)や作業くずの管理は、現物の厳重管理と使用量管理(理論的なあるべき残高と実際の残高の照合)が求められる。

 他方、歯科治療から派生的に生じた撤去冠については、その都度、継続記録して管理すべきものではなく、一定期間で総量的に管理すべきものである。なぜなら、理論的に、標準的に何グラム発生するとは言えず、また、厳重管理すべき高価品の含有率も現物に比べればかなり低いと推定される。

 したがって、撤去冠については、少なくともリスクに応じた総量管理(目視でなくなっていないかというレベルの牽制)を行うことで管理されたい。

 

6.まとめ

歯科診療所における金パラの管理は、このような状況下に置かれている以上、性善説に立った観念的な管理ではなく、問題すら起こりえないための仕組(ルール)を構築して、科学的かつ客観的な管理を根付かせておくことが求められる。何かしらの問題が発生してから管理を強化するのではなく、管理の在り方として仕組(ルール)を構築するということは、民主的な管理、運営の前提となるものであり、根源的には誤謬や不正から職員を守るということにつながるものである。

 

(公認会計士 田中淑寛)

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