社会保険料の徴収誤りへの対応
社会保険は国民健康保険や労働保険なども含む広い概念もありますが、狭義の社会保険(以下、本文中の「社会保険」は健康保険、介護保険、厚生年金保険を指す。)についての、社会保険料の徴収誤りへの対応等、紹介します。
社会保険料については徴収誤りや納付誤りが発生すると、発生時点および将来の年金受給時点でも職員本人の不利益となりえますので、正しい処理が求められます。しかし、実務においては十分注意していたとしても単純作業ミスや給与ソフト未対応部分での手作業による誤りが発生しうるかと思います。いずれにしても、万が一誤りが発生した際には職員への丁寧な説明は必須でしょう。
以下、誤りが発生した際にケース毎にどのように対応するかについてまとめます。
1.社会保険料の誤り
(1) 標準報酬月額の算定は正しくおこなわれたが、職員から徴収する分を誤って低い(高い)まま算定していたケース
翌月以降に職員との間で精算をおこないます。現金精算や翌月以降の給与内にて精算する、また分割にて精算することなどが考えられます。いずれにしても、当該精算は社会保険料の精算であり、精算額は雑収入や雑費等で処理するのではなく、預り金や法定福利費など社会保険料に関する勘定で会計処理をおこないます。
(2) 定時決定で標準報酬月額の算定を誤ったケース
まずは算定を誤った旨年金事務所に連絡をしましょう。そのうえで、算定基礎届の訂正書類の提出をすることになります。9月からの調整に間に合わなくても10月以降で調整をしてくれるため、早期に対応をしましょう。これにより、納付した保険料が本来納付すべき保険料額を超えていることが判明した場合、6ヶ月以内に納付されるべき保険料について納期を繰り上げたものとみなし、原則として翌月以降の保険料への充当となります(健康保険法第164条第2項)。なお、6ヶ月経過後も超過がある場合は還付することになります。
また、算定誤りにより、本人から徴収する分は正しく計算されていないこととなります。本人への説明のうえ、差額分が生じれば(1)と同様に調整する必要があります。
2.社会保険料の誤りにおける所得税への影響
個人が負担している社会保険料が異なれば所得税の計算にも影響を及ぼします。所得税計算における社会保険料控除の金額が変わるためです。社会保険料控除が増加すれば所得税は減少し、社会保険料控除が減少すれば所得税は増加します。
(1) 当年の社会保険料を誤ったケース
当年の社会保険料の誤りは、社会保険料誤りを精算した当年の年末調整により正しい所得税の計算がおこなわれます。
(2) 過去の年から社会保険料を誤ったケース
年末調整の期限(1月31日)内であれば、年末調整の再計算をおこない源泉徴収票等を提出しなおすことになります。しかし、年末調整期限を超えた場合は速やかに年末調整をやり直し、確定申告をしている職員であれば所得税額の変更により修正申告(もしくは更正の請求)が必要となります。
対税務署との関係では事業主が源泉徴収義務者であることから、不足した源泉所得税について(職員との間で所得税不足分の精算が完了していなくても)税務署に納付する必要があります。この場合には、納期限に間に合わなかったことになるため、不納付加算税や延滞税が生じるケースもありうるでしょう。
一方で、年末調整の再計算により源泉所得税の過納付となった場合、税務署に還付請求をおこないます。還付請求は還付請求書の作成や添付書類の準備など非常に繁雑な手続となります。
4.終わりに
繰り返しにはなりますが、社会保険料の徴収誤りにより職員本人への不利益となり、また正しい社会保険料への訂正や場合によっては所得税の計算に影響を及ぼします。影響は多岐にわたりその修正にも多大な労力を割くこととなります。ミスを起こさない正確な社会保険事務となるよう業務を整備していくことが重要です。
厚生年金保険では2020年9月より標準報酬月額の上限等級が1つ追加されました。給与計算システムにより社会保険料の計算をおこなっている法人が多いと思いますが、システムに過度の信頼を寄せることは注意が必要です。今回のような等級の追加や一部変更がシステムに正確に反映されているか、十分に注意しましょう。
以上