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公益法人等が受け取る補助金等に係る消費税対応について

 昨年の今頃は誰もが予想もしていなかったコロナ禍によって日々の生活環境も激変していると思われます。我々が関与しているクライアントでもコロナ禍によって非常に苦戦を強いられている状況が見受けられます。政府や行政の対応の遅れや補償内容の不充分さが際立っていますが、現実に開始されている補助金制度やキャンペーンもあり、会計、税務的にもいくつか対応しなければならい取引が存在します。今回はその中でも公益法人等が受け取る特定収入(補助金等)に係る消費税申告上の取扱について簡単に紹介させてもらいます。

 

<公益社団・財団法人や社会医療法人が受ける特定収入>

 

 特定収入とは、「資産の譲渡等の対価に該当しない収入」すなわち「不課税」の収入に該当するものをいい一般的には補助金等がこれに該当します。医療法人や医療生協、株式会社が特定収入を受けても何ら消費税の計算上、調整をおこなう必要ありませんが、税務上の公益法人等※が特定収入を受けた場合は消費税の計算上一定の調整が必要になることがあります。後でも触れますが調整が必要となった法人は控除できる消費税の金額がさらに少なくなります。

今回は様々な種類の補助等がある医療関係の法人にしぼって(1)~(4)で特定収入の内容や調整の方法等を簡単に説明しています。

※公益社団・財団法人、社会医療法人、社会福祉法人、NPO法人、一般社団・財団法人、人格のない社団、法人である労働組合

(1) 特定収入の例示

 特定収入は対価性のない収入をいい、以下の収入などが該当します。

・補助金・交付金

・寄附金

・保険金

 他にもいくつか制度上定められていますが、我々が関与するクライアントにおいて特に確認が必要な特定収入は上記3点と考えられます。

 なお、引当金の戻入や他会計からの繰入金は特定収入には該当しません。また、注意が必要なのは人件費に係る補助金も課税仕入れ等以外のためのみに使用される収入ということで特定収入には含まれません(雇用調整助成金など)。また、国等からの慰労金で法人から本人へ支払われる分も含まれません。

 

(2) 消費税の計算上調整が必要な場合

 1課税期間における特定収入の合計額が「課税売上、非課税売上、特定収入」の合計額の5%を超える公益法人等について、調整が必要となります。

 なお、補助金や寄附金については受取時点において、すでに設備投資や感染対策費用等使途が確定されているものもありますが、特定収入割合の計算上これらの補助金も含めて特定収入割合が5%を超えているかどうかの判定をおこなうことになります。

 

(3) 特定収入に係る支出の区分

 特定収入に係る調整をおこなう必要がある法人は、受け取った特定収入の使途が特定されているかどうかの区分をおこなわなければなりません。一般的には設備補助金や感染対策費用に係る補助金などは使途が特定されているものに該当し、コロナ対応における空床確保に係る補助金は使途が特定されていないものに該当するでしょう。補助金や寄附金等の1つずつの収入について、このような区分が必要となるので、非常に手間を要するといえます。

 

(4) 特定収入が5%を超える場合の消費税計算方法

 実務的には計算方法は非常に煩雑となりますが、一言であらわすと「特定収入から支出又は特定収入に対応する課税仕入に係る消費税は仕入税額控除を認めない。」というものです。

 簡単に計算も紹介します。

前提:課税仕入れ1,000,000千円(税抜き) 課税売上割合10% ※調整割合6%

特定収入全額使途不特定

※調整割合とは、特定収入割合に一定の調整を加えた割合をいいます。

 1,000,000千円×10%(消費税税率)×10%×6%=600千円

 仮に10億円の課税仕入れで上記前提とした場合、特定収入により控除できない金額は60万円となります。課税売上割合が低い法人は、そもそも控除できる仕入税額の金額が少額にもかかわらず、特定収入による調整により控除できる仕入税額の金額がさらに少なくなります。

 なお、上記計算では特定収入の全額を使途不特定としていますが、特定収入に係る使途が課税仕入れに特定されているものは、その支出に係る全額が消費税の計算上控除できないことになります。

 

 今回紹介した特定収入があった場合の調整を要するのは私どもが関与するクライアントでは新型コロナ感染症対応のための重点医療機関等で多額の補助金が予定されている法人に限ると想定されます。多額の補助金を受けていない公益法人等に係る医療機関では調整は要しないものの、そのこと以前に特に中小の医療機関に係る補助金等の補償がはまだまだ充分といえない状況です。新型コロナウイルス感染症がまた拡大している現状にあって、唯一新型コロナウイルスに対抗できる医療機関の補償なしには今後の展望はひらけないといえ、政府行政はいち早く医療機関への補償の検討をすべきといえます。

 一方で補助金等を受けた法人については、税務上定められている制度には対応しなければならないのも事実です。今回紹介した特定収入による調整は計算方法等が非常に煩雑であるため、事前の準備も重要となってきます。実務的には上記(3)の支出の区分については労力と手間を要するため、主要な支出のみ区分することも選択肢としてはあり得るかもしれません。また、消費税の申告ソフトは特定収入の計算に対応していないと想定されるため自動計算が期待できない点も踏まえておく必要があります。いずれにしても、何ら検討もなしに判断や対応することはできないので顧問税理士とも事前に相談のうえ準備し、申告に備えることが重要といえます。

 

以上

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