協働 公認会計士共同事務所

レポート

レポート > コラム,レポート

セルフメディケーション税制と社会保障の切り捨て

 安倍政権に引き続き、菅政権でも社会保障の切り捨て政策が進められています。コロナ禍における医療・介護等の現場の皆さんの必死の奮闘にもかかわらず、政府の政策は迷走するばかりで、とても国民の方を向いているとは思えません。コロナ対策以外の社会保障政策・医療政策についても同様に思います。その中でも、今回はセルフメディケーション税制について取り上げてみます。

 

1.制度の概要

 

 セルフメディケーション税制とは、簡単にいうと一定の取組を行う個人がスイッチOTC医薬品を購入した場合に所得控除を受けることができる制度です。制度の詳細については、当HPでも以前に取り上げていますので、ご参照下さい。

(https://www.kyodo-cpa.com/qa/02zeimu/2017/0303_96.html)

 セルフメディケーション税制の促進が社会保障の切り捨てであるというと、疑問に思う人もいるでしょう。建て付けとしては医療費控除の特例であり、所得控除できる機会が増えるのは一見国民にとってプラスであるように見えるかもしれません。しかし、その背景には医薬品について保険給付の対象から外し医療費を削減していこうという政府の目論見が見て取れます。その点で、セルフメディケーション税制は社会保障の切り捨て政策の一つであると言えます。我々1人1人が政府のおこなう(おこなおうとしている)政策について、その背景までもしっかりと捉えることが重要だと思います。

 

2.セルフメディケーション税制を取り巻く状況

 

 そもそもセルフメディケーション税制は2017/1/1からスタートしました。実際のセルフメディケーション税制の利用状況については、各種報道や調査結果を見てみると制度自体の認知度は拡大傾向にあるものの、利用している人はあまり増加していないようです。医療費控除との併用が認められていない点や、対象品目が分かりづらいといった理由がその主たる要因であると考えられます。加えて、健康診断や人間ドックの結果通知書などの重要な個人情報を確定申告書に添付等する場合があった(R3年税制改正で内容の記載で構わないと改正されました)こともセルフメディケーション税制の利用を控えさせる要因の一つであったかもしれません。

 一方で昨年から続くコロナ禍における医療機関への受診控えもあり、軽い症状であれば市販の医薬品を使用して乗り切ろうとした、あるいは乗り切ったと考えている人も大勢いたのではないでしょうか。今現在でも引き続きコロナ禍における状況は先行不透明であり、そのような状況の中で、セルフメディケーション税制を活用する人も増加していくことも考えられます。

 また、制度自体も制定当初は2021/12/31までの5年間でしたが、R3年税制改正において、5年間の延長がなされました(2026/12/31まで)。政府としては引き続き制度の利用を国民に促していきたい意向のようです。

 

3.制度の問題点

 

 そもそも、このセルフメディケーション税制を制定した政府の意図は、国民に対して、少々のことで医療機関にかかることなく、「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること」を促すものです。先にも述べましたが、医療費として国の負担となる医療機関で処方される医療用医薬品ではなく、スイッチOTC医薬品等で代用させることにより、国の医療費を削減していこうという思惑が見て取れます。社会保障を切り捨て、医療費を削減するための政策です。また、セルフメディケーション税制の推進のために、市販されている医薬品等について保険給付の対象外とすることも検討され、実際に一部の品目において処方の制限が設けられています。これは、市販品として薬局等で購入できる品目については保険給付から外すというものであり、やはり医療費削減政策の一つです。

 自己責任論という言葉は昨今よく耳にしますが、その自己責任論という名のもとに、このような社会保障の切り捨て政策が進められているということについて、私たちはもう一度よく考えてみる必要があると思います。

 セルフメディケーションについてよく考えてみると、「軽度な身体の不調は自分で手当てする」というのも極めて乱暴な考え方です。体調が優れないから医療機関へいくというのは当たり前の健康管理であり、それを妨げるような政策はあってはならないものだと考えます。また、それでいて政府はかかりつけ医をもちましょうと言います。軽度な体調不良でも構えることなく頼れるのがかかりつけ医なのではないでしょうか。やはり今の政府の政策は行き当たりばったりで迷走しているように見えます。

 最初にも述べましたが、安倍政権に引き続き菅政権でも社会保障の切り捨てが進められている状況です。セルフメディケーション税制一つ取ってみても分かるように、政府は自助を優先する政策を様々な面で強行しています。自助ではとても対応しきれないコロナ禍の今こそ政府が責任を持って役割を発揮していくことが求められます。私たちもコロナ禍の中で個々の生活が大変な状況ではありますが、そのような状況だからこそ政府が間違った政策を進めようとすることに強く反対の意思を表していくことが重要なのではないかと思います。

トップへ戻る