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社会福祉法人における「組織再編」

 近年、社会福祉法人において法人運営の担い手(理事後継者)不足や職員確保の困難性などから、「組織再編」を検討している法人が増えているようです。今回は、こうした社会福祉法人における「組織再編」の種類や会計処理、実務上の注意点といった視点から解説したいと思います。

 

1.「組織再編」の種類

 

 社会福祉法人における「組織再編」の種類としては、大きく区分して「合併」と「事業譲渡等」の2つの方法があります。

「合併」は、社会福祉法人同士のみで可能であり、法人の財産はもちろん雇用契約など一連の契約関係についても包括的に引き継ぐことになります。「合併」には、複数の法人が結合して新法人となる「新設合併」と、どちらか一方が存続法人となって他法人を吸収する「吸収合併」の2パターンが認められています。

 「事業譲渡等」は、ある法人の一部事業だけを譲渡または譲受する方法です。この場合、譲渡等をおこなう当事者は必ずしも社会福祉法人でなくても構いません。ただし、社会福祉事業は所轄庁の認可が必要な事業も多くあり、第1種社会福祉事業のように実施者の法人格が制限されているものもあります。また、社会的責任として、「事業譲渡」後も利用者に対して適切にサービス提供が継続されることが必要です。こうした点からも、「事業譲渡等」においては相手先の選定や「目的」「理念」などの明確化がとりわけ重要といえるでしょう。

 ちなみに、社会福祉法人においては「分割」は法的に認められていないため、一部事業のみを他社会福祉法人に移管するためには「事業譲渡等」の形式を取るしかありません。

 

 なお、「合併」「事業譲渡等」の主な進め方は、当事者間の合意形成、所轄庁との調整や申請・認可、評議員会等での承認、登記手続きなど、いずれもおおむね同様の手続きが必要となっています。ただし、「事業譲渡等」の場合は、債権者保護手続きは必須ではありません。具体的な手続きの詳細は、行政HPをはじめ他サイトでもたくさん解説されていますので、実際に「法人再編」を進めていく場合はそちらをご参照ください。

 

2.「法人再編」の会計処理

 

(1)「合併」の場合

 

 「合併」については、経済的実態は「統合」と判断され、資産・負債ともに適正な帳簿価額(簿価)をそのまま引き継ぐことになります。これらは、基本金や国庫補助金等特別積立金についても同様です。したがって、合併時点において消滅法人(「合併」により消滅する法人)の決算をおこない、ここで確定した財産を帳簿価額のまま存続法人あるいは新設法人が受け入れます。

なお、当該消滅法人の合併時決算において過去の会計処理誤り等が検出された場合は、存続法人へ引き継ぐ前に適正な帳簿価額に修正したうえで合併の会計処理をおこないます。一方、存続法人の会計方針と統一するために結果的に残高が修正される場合は、存続法人へ引き継いだ後、存続法人の会計処理として必要な修正をおこないます。

 

(2)「事業譲渡等」の場合

 

 「事業譲渡等」については、経済的実態は「取得」と判断され、移転する資産・負債はその時点の公正な評価額、いわゆる「時価」とする必要があります。公益性の高い社会福祉法人においては、「特別の利益供与」や法人外への対価性のない資金流出が禁止されています。また、「合併」と異なり、一部事業のみを移管することから移管対象が基本財産や国庫補助金を受領した事業(財産)である場合など、所轄庁の承認が必要となるケースも想定されます。「時価」の算定過程や根拠などを含め行政等ともよく事前相談し、これら禁止規定に抵触しない客観性・公正性を担保しておく必要があります。

 

3.「組織再編」にあたって実務上の注意点

 

(1)賃金・労働条件のあり方

 

 社会福祉法人に限らず、「組織再編」をおこなう場合は各法人の賃金・労働条件が異なるケースがほとんどです。したがって、「組織再編」後の賃金・労働条件のあり方について検討し、職員・労働組合等の理解を得ておくことが必要です。

旧法人の賃金・労働条件を各職員がそのまま引き継ぎ、同一法人となった後も複数の賃金・労働条件等が併存している事例もありますが、職員間の不平等感や不団結につながる可能性があります。逆に、賃金・労働条件をそれぞれの「高い方」に統一する事例も見受けられ、職員の理解は得やすいですが、合同後の法人の経営が将来的に成り立つのかを慎重に検討することが重要です。

これらの点もふまえて、賃金・労働条件のあり方については、充分な検討・協議をおこなったうえで、職員等に対する丁寧な説明が求められます。また、細かい論点として、給与の締め日や支給日が異なる場合もありますので、こうした事前の調整も必要となります。

 

(2)会計・経理実務の統一

 

 社会福祉法人同士の合併であれば、基本的に社会福祉法人会計基準にもとづいた会計処理をおこなっているはずです。ただし、異なる会計システムを使用している場合は、システム的な統合や統一的な勘定科目設定などが必要となります。また、伝票起票をはじめとした日常の各種経理実務についても、事前に双方の業務フローを確認し、統一化していくことが求められます。

 また、法人合同後における「本部拠点」や本部費用の範囲や配賦方法など、本部会計のあり方についても検討が必要です。

 法人合同後に混乱が生じないよう、経理実務担当者だけに任せるのではなく、法人全体で方針や運用方法を決定したうえで、各事業所(拠点)にも周知徹底しておくことが重要です。

 

(公認会計士 千葉啓)

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