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医療法人の経営情報報告制度について

1.問題意識

 2023年(令和5年)5月19 日に公布された全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律により、医療法が改正され、医療法人に関する情報の調査及び分析等を行う新たな制度が2023年(令和5年)8月1日から施行されることとなった。

 そこで、制度の概要を鳥瞰したうえで、制度の導入目的、実務への影響及び留意点を考察している。

 

2.制度の概要

 「医療法人に関する情報の調査及び分析等について」(厚生労働省医政局長事務連絡)及び「「医療法人に関する情報の調査及び分析等」の取扱い(第2版)について」(厚生労働省医政局医療経営支援課事務連絡)において、医療法人が都道府県に報告すべき経営情報の内容や様式が示されている。

①    報告の対象となる医療法人

 原則として、すべての医療法人が毎会計年度終了後に、当該医療法人が開設する病院と診療所の収益及び費用等の情報(「経営情報等」という。)を報告しなければならない。

 

②    経営情報等の内容

 経営情報等とは、「医療法人に関する情報の調査及び分析等について」で掲載されている「様式1(病院用)」と「様式2(診療所用)」のことであり、具体的には、経営状況に関する情報(いわゆる損益計算書)と職種別給与総額及びその人数に関する情報の二つである。

 

③    報告の方法

 医療法人から都道府県への報告は、ⅰ)医療機関等情報支援システム(G-MISという。)を利用する方法と、ⅱ)法第51条第1項に規定する事業報告書等の届出と一緒に郵送等により書面で提出をする方法がある。

 2022年(令和4年)3月31日以降に決算期を迎える医療法人の事業報告書等につき、医療機関等情報支援システム(G-MIS)への電子媒体のアップロードによる届出が可能となっており、すでにG-MISを使用している法人はⅰ)の方法、書面提出の法人は、どこかのタイミングでG-MISでの届出に変更することになろう。将来的にはG-MISでの届出が強制されると推察されるが、現状では強制されていないため、利便性を勘案してどちらの報告に依るかを判断されたい。

 

④    適用日

 2023年(令和5年)8月1日以降に決算期を迎える医療法人につき、毎会計年度終了後、原則3ヶ月以内に経営情報等を都道府県に報告しなければならず、3月決算の医療法人は2024年6月末までに最初の経営情報等を提出することとなる。

 

3.制度の導入目的

 当該制度の導入目的は、「医療提供体制の確保に資する調査、学術研究又は分析を行う者に対して医療法人の活動の状況その他の厚生労働省令で定める事項に関する情報を収集し、整理した情報を提供する仕組みを導入する」とされており、厚生労働省等が医療法人の情報収集をするためにあると考えられる。

また、「経営情報等には、医療法人や当該医療法人に所属する特定の個人の権利利益や法人の競争上の利益が害されるおそれがある情報が含まれており、経営情報等が悪意をもって利用されれば、本制度に対する信頼と協力を損なう可能性があることから、当該情報の秘密は保護する必要があり、個人や法人を特定することができる内容を公にすることを前提として収集するものではない。」とされており、真の情報公開を目指したものではないことは明らかである。社会福祉法人におけるワムネットによる情報公開とは性質が異なるものと考えられる。

 なお、行政当局においては、法制度に規定された範疇で行政指導すべきであり、拡大解釈や独自見解により、対応する医療法人の実務に混乱を生じさせないよう切に願う。

 

4.実務への影響

 経営情報等の報告は、施設ごと(事業所ごと)に作成しなければならず、施設ごとに決算を行っていなければ、会計実務に多大な影響が生じるものと思われる。他方、日常的に施設ごとで決算を行っていれば、施設ごとの損益計算書の数値を基にして、様式に記載されている勘定科目の数値を集計、集約して転記していく作業で事足りる。

 それぞれの医療法人で経営情報等の作成にどの程度の作業時間がかかるのかを事前に把握するうえでも、早めに経営状況に関する情報と職種別給与総額及びその人数に関する情報の内容を確認しておくのが望ましいといえる。

 

5.「経営状況に関する情報」の様式(G-MIS様式)の特徴

 G-MIS様式は、経営情報のデータベース化という目的の下、比較可能性を確保するために各医療法人特有の勘定科目は想定されておらず、指定様式に対して、科目削除、追加等のアレンジができず、限定列挙されているのが特徴である。

 したがって、それぞれの医療法人で使用している勘定科目とG-MIS様式が異なる場合は、表示科目の組換えが必要となる。例えば、G-MIS様式では、医業収益につき、入院診療収益、室料差額収益、外来診療収益、その他の医業収益しか列挙されていないため、入院、外来以外の収益は「その他」に集約することになろう。

 

6.実務上の留意点

 医療法人は、医療法人会計基準に準拠して決算を行う必要があり、「貸借対照表は、会計年度の末日における全ての資産、負債及び純資産の状況を明瞭に表示しなければならない。」「損益計算書は、当該会計年度に属する全ての収益及び費用の内容を明瞭に表示しなければならない。」と定められており、使用する勘定科目は法人ごとに異なる(様々な)ものであり、限定列挙で一様な形式にはならないはずである。したがって、日常的には医療法人会計基準に準拠した決算を行ったうえで、理事会及び社員総会(評議員会)の承認を得る必要がある。その確定した決算書を用いてG-MIS様式に組み替えることが重要である。

 また、G-MIS様式では、運営費補助金収益と施設整備補助金収益の別掲開示を求めており、医療法人が受領した補助金の情報を収集することも目的にしていると推察される。特に、補助金については交付元の情報と照合されることもあり得、正確かつ漏れなく集計する必要があるため留意されたい。

 いずれにしても、制度の趣旨や実務上の留意点を押さえたうえで、担当者任せではなく、組織的に議論検討のうえ、行政対応していくことが必要である。

 

(公認会計士 田中淑寛)

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