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労働者協同組合の紹介と今後の期待

 労働者協同組合法が2022年10月1日に施行された。労働者協同組合法における労働者協同組合とはどのような法人となっているのかなどを簡単に紹介し、みていきたいと思う。

 

1.労働者協同組合

 

 これまで法律で想定されていた雇用関係は、労働者を雇用する「使用者」と使用者に雇用され労働を提供する「労働者」の2つに分けられたものであったが、労働者協同組合法が対象とする労働者協同組合では、労働者と雇用者が明確に区別されることなく、組合に属する組合員が「出資・経営・労働」のすべての役割を担う組織となる。

労働者協同組合では組合員が事業の所有者であり、経営者であり、労働者となる。その目的は「持続可能で活力あり地域社会の実現に資すること」であり、「営利を目的としてその事業を行ってはならない」とされている。なお、議決権は出資額に関わらず一人一票となっている。

 

2.労働者協同組合の事業

 

(1)営利を目的とした事業はおこなうことができない

 労働者協同組合は、営利を目的とした事業をおこなってはならないと規定されているが、出資配当を禁止(従事分量配当は可)していれば、原則としてどのような事業でもおこなうことができる。ただし、労働者派遣事業はおこなうことができないとされている。

※出資配当は認められていないが、労働時間等を基礎にした従事分量による剰余金の配当が認められている。

 また、ここでいっている「営利を目的としてその事業をおこなってはならない」とは、営利事業をおこなってはいけないという意味ではなく、事業で得た剰余金(利益)を構成員に分配することを目的として事業をおこなってはならないということである。

 

(2)事業従事にあたっての人数要件

 労働者協同組合は、原則として「事業に従事する人=組合員」であることが求められているが、現実的な事情を考慮して全従業者の1/4未満であれば、非組合員も働くことが認められている(全従業者の3/4以上は組合員でなければならない)。

 

3.労働者協同組合の組合員

 

(1)出資金について

 出資金一口の金額、必要な出資口数はそれぞれの組合で定める(現物出資も認められている)。また、組合員の責任は出資額を限度とされている。

 

(2)議決権等

 一人一票の議決権および選挙権が組合員には与えられる。これは金額の多寡にかかわらず全組合員に平等に与えられている権利である。

 

(3)加入

 組合員になれるのは個人だけとなっている。したがって、団体・組織は組合員になることはできない。

 

(4)労働契約の締結

 労働者協同組合は、事業に従事する組合員との間で労働協約を締結しなければならない。

ただし、組合の業務を執行する組合員(代表理事)、理事の職務のみをおこなう組合員(専任理事)は使用者側の立場にあること、また監事である組合員については監査の独立性を担保する必要があることから、労働契約を締結できない。

※労働契約の締結をなしに法制化する動きもあったようだが、現状の日本の法制度と照らし合わせると、困難であったようである。

 一方で、労働契約の締結により労働者として法的に明確に規定され、組合員は雇用保険等の社会保険に加入することができる。

 

4.労働者協同組合の税務上の取扱い

 

(1)一般労働者協同組合・特定労働者協同組合

・一般労働者協同組合

 一般労働者協同組合は、税務上は普通法人の取扱いとなる。

 →全部課税

・特定労働者協同組合

 非営利性が徹底された労働者協同組合に対して、労働者協同組合の申請に基づき行政庁が認定するものであり、特定労働者協同組合は税務上公益法人等の取扱いとなる。

 →収益事業課税となり、区分経理が求められる。

※イメージとして特定労働者協同組合は、非営利型の一般社団・財団法人と同様の適用関係となる。寄附金などを受領した場合は、収益事業には該当しないことから法人税等の課税関係は生じないといったメリットがある。

 また、ここでいっている「非営利性が徹底された労働者協同組合」とは、定款に剰余金の配当をおこなわない旨の定めがあることに加えて、以下の要件をクリアしている労働者協同組合をいう。

① 定款に、解散時に組合員に出資額限度で分配した後の残余財産は国・地方公共団体・他の特定労働者協同組合に帰属する旨の定めがあること。

② 剰余金の配当および①の定款違反行為をおこなうことを決定し、又はおこなったことがないこと。

③ 各理事の親族等の関係者が理事の総数の3分の1以下であること。

 

(2)固定資産税・都市計画税

 単体の労働者協同組合では固定資産税・都市計画税の非課税の措置は講じられておらず、課税の対象から外れる資産はないことが想定される。一方で、令和5年度税制改正の大綱において、「労働者協同組合連合会が所有し、かつ、使用する事務所及び倉庫に係る固定資産税及び都市計画税の非課税措置を講ずる。」とされていることから、労働者協同組合連合会が所有する該当年度以降の該当資産については、固定資産税および都市計画税は非課税となることが想定される。

※固定資産税と都市計画税の非課税は連合会限定となっており、労働者協同組合単体とはなっていない点は留意する必要がある。

 

5.労働者協同組合の今後の拡がり

 労働者協同組合法が施行されるまでは、労働者協同組合の法人形態により事業活動をおこないたくても選択することができずやむを得ず選択してきたNPO法人や企業組合(これらの法人は人数や認可・認証といった制約が設けられていたことから設立に手間を要した)に対して、労働者協同組合は、要件を整えて登記するだけで設立できる「準則主義」となっていることから、設立のしやすさといったメリットにより増加していくことも想定される。ただし、労働者協同組合と同じ「準則主義」で設立することができる一般法人と比較すると、労働者協同組合では組合員の出資金を管理する必要があることに加えて、組合員の事業従事に係る人数要件(全従業者の3/4以上は組合員でなければならない)をコントロールする必要があるなど法人運営についての実務的な負荷は増すことになる点は注意したい。労働者協同組合は、働く一人一人が一票の議決権を持つことが大きな特徴であり、魅力でもある。経営や組織のあり方だけでなく、事業計画なども組合員のものとして考え話し合い決定していくという民主主義を徹底して重視している仕組みである。労働者協同組合では、組合員が自分たちで議論してそれぞれの意見を出し合い、事業・経営をおこなっていくことから、合意の形成がスムースにいかないことも想定される。こうした場合は、「対話」を重ねて解決を図っていく必要があり、これも民主的な管理運営の特徴の1つといえるであろう。ただし、労働者協同組合は法制化の積極面はあるものの、子どもの居場所づくりや高齢者や障害者の福祉など本来は国や自治体が中心になって担うべき事業の受け皿に利用されるのではといった懐疑的な意見もある。こうした点も留意する必要はあるが、労働者協同組合法は協同労働が広く知れ渡るきっかけになっていることは間違いなく、今後ますます発展していき、非営利分野における組織発展につながっていくことが期待される。

 

以上

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