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令和5年度 相続税と贈与税の改正

暦年課税で贈与した財産の相続財産への加算拡大と相続時精算課税の基礎控除の創設より

 

 相続税や贈与税は、所得税のように毎年の税金ではなく相続や贈与という特別な事情が生じたときの税金であることから、自分には関係がない税金と認識されている方も少なくありません。令和5年度の相続税と贈与税の改正では、贈与税の「暦年課税」で贈与を毎年している方に対して相続税課税を強化し、代わりに「相続時精算課税制度」を選択し活用すれば相続税を少なくすることができる仕組みがつくられました。

 今回は、相続税と贈与税の関係性や暦年課税、相続時精算課税について知ってもらい、相続税が本当に自分には関係ないのか考えてみるきっかけになってもらえたらと思います。

 

1.相続税と贈与税の関係

 

 相続税は、人の死亡により相続が開始され、その時点で亡くなられた方(被相続人)の財産が相続人等に移転することにより課税される税金です。民法では、相続人は被相続人に属した一切の権利義務を継承するとされています。(民法896条)

 相続税法には、相続開始により課税される「相続税」と個人から個人への財産の移転に対して課税する「贈与税」の二つの税目の申告納税について定められています。贈与税がなければ、相続開始までに相続人に継承される財産を生前に移転させることで相続税額を圧縮できてしまうことから、贈与税は相続税を補完する税として存在しています。

 以前から相続税は、財産(不動産・預金・有価証券など)を多く持っているお金持ちの方にかかる税金であるとされていましたし、実際にも被相続人100人のうち4人程度が申告納税をする税金でした。しかし、平成27年(2015年)1月1日から基礎控除額(財産の合計がここまでの金額であれば課税はしないという金額)が60%に引き下げられた影響を受けて、平成27年度の申告納税は100人のうち約8人と倍増しています。(国税庁:相続税の申告事績より)この引き下げにより、例えば、父親が亡くなり、相続人は、配偶者+子ども2人=3人だとすると、基礎控除額は次のようになりました。

 

改正前 5,000万円+相続人1人あたり1.000万円 相続人3名の場合 8,000万円

現在  3,000万円+相続人1人あたり 600万円 相続人3名の場合 4,800万円

 

 この基礎控除額の改正を受けて、都市部では、自己の居住用住宅と多少の預金財産を保有している場合だけでも基礎控除4,800万円を超える可能性が十分あり、決して他人事ではない税金になってきたといえます。

日頃の相続税のご相談で、「この財産なら相続税はどの程度になりますか?」と一つの不動産だけの情報でご質問を受けることがよくあります。しかし、それだけでは相続税がいくらになるかはお答えできません。相続人の構成や所有財産の現況、遺産をどう相続させたいのか(又は相続人は何を相続したいのか)などで、例えば適用できる財産評価や特例適用の可否が決まることがあるからです。税額計算に必要な情報をお聞きする(収集する)必要があり、提案できるまでにお時間をいただくことが常です。

 いずれにしても自分が亡くなった時の財産を誰に継承してほしいのか(必要に応じて遺言書の作成)、相続人が相続税の申告納税をする可能性があるのか、相続税額はどの程度になるのか、その相続税は相続財産の現預金で支払えるのか等、もしもの時のために、一度は所有する財産の総額を算出して、相続税の全体像を把握しておくと自身も家族も安心できると考えます。

 

2.贈与税の暦年課税と相続時精算課税制度

 

(贈与税の暦年課税とは)

 その年に贈与を受けた者は、その年に贈与された財産の合計額から基礎控除(110万円)を差し引いた残額に税率を乗じて、贈与税を負担することになります。この期間が1月1日~12月31日であることから「暦年課税」と呼ばれており、贈与税は年間110万円まで非課税と言うことは広く知られています。なお、亡くなる直前で家族に財産を移転させて相続財産を減らして相続税を軽減させることも可能なことから、亡くなる前3年間の贈与は相続財産に加えることになっています。(贈与税が課税されている場合には、その贈与税は相続税から控除して、二重課税にならないようにします。)

 

(相続時精算課税制度とは)

 相続税法における相続時精算課税制度は、個人の財産が早期に次世代へ移転させることにより経済の活性化を促すという観点から平成15年(2003年)に導入されました。この制度を選択すると、親や祖父母の財産を子や孫に贈与した場合、その者からの贈与額が2,500万円に達するまで、贈与税がかからないことになっています。ただし、贈与された財産は、贈与者の相続税の計算において相続財産にすべて加えて計算されることとなります。また、制度を選択するためには届出が必要で、一度選択するとその後の贈与で上記の暦年課税を選択することはできず、すべての贈与を申告しなければなりません。そして贈与した資産の贈与時の時価をその後の相続税計算においても適用しなければならいため、時価が変化する財産を贈与する場合には慎重な判断が必要です。これらのことから相続時精算課税制度の選択は進んでいないのが実態のようです。そもそもこの制度選択をすることは、家族間贈与や個人の財産を国に通知しているのと同じことです。節税は大事ですが、他人(国)に財産管理をされることは、私なら遠慮しておきたいところです。

 

(暦年課税から相続時精算課税制度への誘導)

 令和5年度の改正では、暦年課税を適用した場合の相続税に加算する年分を亡くなる前3年から7年間に拡大して相続税の課税を強化しました。その一方で、相続時精算課税制度に暦年課税と同様の基礎控除(年110万円まで非課税)が導入され、さらに基礎控除(年110万円)までは、相続財産に加算しなくてもよいことになりました(令和6年1月1日から適用開始)。

両制度の基礎控除110万円だけを考えた場合、相続時精算課税制度を選択した方が相続税の負担が少なくなることもあります。

 ただ、これは明らかに暦年課税から相続時精算課税制度への誘導です。いずれ家族間の暦年課税は廃止も視野に入れているようにも見えます。

 今まで自由に贈与契約をおこない非課税額までは申告する必要がなかった贈与に対する課税を強化し、一方で、相続時精算課税制度に暦年課税と同等の年間110万円の非課税を創設して、家族間の贈与については、暦年課税から精算時課税制度へ誘導しようとしています。

 今回の改正は、租税法により個人の財産を丸見えにすることができ、国による個人財産の監視のひとつであると考えられます。

 

 

3.その日のために

 

 多くの方が租税法に沿って最大限の節税を考えます。私もそのお手伝いをすることを仕事にしています。しかし、実際に家族へ贈与をおこなう場合、税金の多寡だけで判断することはその方と家族にとって最善策とならないこともあります。このことは、相続分割とその場合の相続税やその試算においても同様です。

相続を考える場合には、まず、自身の財産をどのように家族に継承させたいのかを決めることです。そのうえで、相続税の節税を検討するなどして相続税額を認識しておくことです。 

 そしてもう一つ、いずれやってくる日にはその場にその方はいません。人生観や家族観は人それぞれ、親子でも伝わらないことがたくさんあります。日頃から自身の相続の考え方を相続人全員に伝えておくことがとても大事なことだと思います。

 

                                      以上

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