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令和6年度賃上げ促進税制について

 令和6年度(2024年度)の税制改正において、賃上げ促進税制の大幅な見直しがおこなわれています。今回の改正では、(1)中小企業において賃上げをした年度に控除しきれなかった税額控除額を翌年度以降5年間繰越控除ができるようになったこと、(2)対象法人の区分に「中堅企業」が新設されたこと、さらに、法人規模の区分により要件は異なりますが、「くるみん」や「えるぼし」の認定を受けている法人は、控除率5%の上乗せが可能になりました。中小企業では、最大45%の税額控除(但し、法人税額の20%限度)となり、法人税の負担が軽減されることになります。

 

(1)中小企業の繰越控除

 中小企業においては、賃上げ促進税制を適用して税額控除額(雇用者給与等の増加額×控除率)が算出されても当該年度の法人税から控除しきれない場合がありました。この切捨てられる控除額を翌年から5年間繰越控除できるようになりました。

 

 今年度の税制改正大綱では、「物価高に負けない構造的・持続的な賃上げの動きをより多くの国民に拡げ、効果を深めるため、賃上げ促進税制を強化する。」とされています。

 日本では長い間給与所得者の給与が上がっておらず、この間の物価高騰などに見合う給与支給の増加を税制面で後押しする改正です。一方で、日本の企業のうち99%以上を占める中小企業、そのうち6割以上が赤字と言われています。果たしてどれだけの中小企業が「構造的・持続的な賃上げ」をおこない、利益を確保して、法人税の優遇を受けることができるのでしょうか。大企業では、賃上げと労働環境の整備が促進され、その恩恵として税制優遇を受けることができても、その大企業を支えている中小企業、そこで必死に働く人の賃金を上げることは簡単ではありません。この先国民の賃金格差は縮まるどころかさらに拡がってしまうのではないかと思います。

 

 運送業を営むあるクライアントは、物流の2024年問題の対応として一年前倒しで2023年度に労働環境や処遇の改善をおこないましたが、大企業である取引先への運賃の値上げ交渉が思うように進まず、2023年度は赤字決算となりました。2023年度の賃上げの要件は満たしていましたが、法人税額が生じないことから賃上げ促進税制の適用をすることはできませんでした。中小企業では、2024年度税制改正でこのように控除できない場合に翌期以降5年間繰越控除ができることになりましたが、この会社が翌期以降に「賃上げ要件(中小企業・前年比1.5%以上)」を満たし、繰越控除できる法人税が生じる経営をおこなうことは難しいことが想定されます。中小企業が繰越控除をおこなう場合、翌年以降の賃上げ要件の判定(前年比1.5%以上)を不要にすべきです。

 

(2)中堅企業の区分の創設

 従来の大企業のうち、常時使用従業員数が2,000人以下の企業を「中堅企業」として大企業から分離して、適用年度の継続雇用者の給与等支払額が前年度比で3%(又は4%)以上増加した場合に、全雇用者の給与等支給額の増加額の10%(4%以上の場合25%)を法人税額から控除できることになりました。

 

 例えば、生協法人は、中小企業者等(資本金1億円以下、資本を有しない法人は従業員数1,000人以下)に含まれる農業協同組合の「」に該当しませんので、賃上げ促進税制を適用する場合は大企業向けを適用していました。2024年度からは職員数が2,000人以下であれば中堅企業を適用することができます。

 ただ、この中堅企業の区分ができても、今までの大企業向けと同様、前年度からの増加額の判定における給与等支払額を継続雇用者の給与等支払額としています。継続雇用者の給与等支払額とは、適用年度と前年度の2年間の全期間で雇用保険の一般被保険者に該当する者に支払われた給与等です。その支払額の抽出にはそれなりの手間がかかることに変わりはありません。法人の損益計算書の給与等の増加率が3%以上を超えていても、適用要件に満たない又はその逆で集計により適用が可能な場合もあり、実際に算定をしてみなければ判定ができません。

 また、中堅企業でも資本金(出資金)10億円以上かつ従業員数1,000人以上の法人は、賃金引上げ、教育訓練等の実施、取引先との適正な構築等の方針=「マルチステークスホルダー方針」を公表及びその届出が必要です。方針の公表はwebでもみられますので参考にしてみてください。

 

(3)適用にあたって

 上記を含め改正後の賃上げ促進税制の詳しい内容は、経済産業省(中小企業等は、中小企業庁)HPに「ご利用ガイドブック」が公表される予定です。(7月末現在 8月上旬予定) 

 2024年以降の適用にあたっては、このガイドブックを参考にして早めに準備を進めていきましょう。

 

                                以上

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