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医療機関における消費税制度の問題点等解消に向けて

 日本における消費税は制度の仕組み自体に問題点があり、社会的政策配慮のため消費税非課税として位置づけている取引があるが、これが医療機関等非営利組織にとっての多大な負担となっており、制度そのものの仕組みの変革が迫られている。この間、こうした消費税制度の矛盾を解消するため、本来あるべき消費税制度のあり方について、弊事務所でも研究している。

 

1.医療機関における消費税の問題点

(1) 現行の消費税非課税制度

 医療機関などにおける医療保健業の本業である医療活動(健康保険法、国民健康保険法などによる医療や、介護保険法に基づく保険給付の対象となる居宅サービスなど)に係る売上については、消費税の制度上ほとんどが非課税売上に該当する。消費税の非課税については税金を支払わなくて済むという誤解が流布されているが、正反対であることが問題である。

 現行の消費税では、取引業者等に支払った消費税のうち非課税売上に対応する部分は、預かった消費税から控除できない仕組みとなっている。つまり、我々が関与している医科法人では課税売上割合は10%未満となっている法人が多く、支払った消費税のうち約90%が預かった消費税から控除できていないことになっている。この控除できない支払った消費税分(控除対象外消費税という)は法人が実質的に負担することになっている。消費税制度は数多くの矛盾を抱えた制度だが、この制度が医療・介護分野の経営を逼迫させている大きな要因となっている。

 

 *課税売上割合=課税売上高(税抜)/(課税売上高(税抜)+非課税売上高)

 

2.現行の消費税の問題点を解決するための制度の提案

 医療機関等非営利組織について、現行の消費税制度の問題点を解消するためには、「社会保険診療等の消費税課税取引化※1」や「社会保険診療等のゼロ税率化※2」もあげられるが、いずれも実現に向けては多くの困難な課題を抱えている。よって、今回は「消費税非課税維持での控除対象外消費税負担解消」を提案する。

 

※1診療報酬等への消費税分上乗せが実質的に患者・利用者の負担増になるのに対して、社会保険診療等の消費税課税取引化は患者・利用者に直接的に負担を求めることになってしまう。

 

※2開業医をはじめとして現状では免税事業者だが課税事業者として申告実務等の負担が生じることになり、一定の反発も考えられる。また、ゼロ税率を前面に押し出して運動を展開しようとしても、免除のイメージから現状の非課税に対する誤解を更に深めてしまう可能性なども危惧される。

 

(1) 消費税非課税維持での控除対象外消費税負担解消

① 制度の解説

 現行の消費税制度では社会保険診療等については社会的政策配慮に基づき非課税となっているにもかかわらず消費税の計算の仕組上、医療機関等に消費税負担が求められる制度となっている。これは国が税収を確保できるよう制度設計されているからであり、この矛盾を速やかに解消しなければならない。社会的政策配慮に基づき非課税としている以上、社会保険診療報酬等には消費税の負担が求められない「真の非課税」とする必要がある。

 計算の仕組みによる矛盾であることから社会保険診療等に係る課税売上割合の計算方法を変更することで、社会保険診療等に係る消費税を非課税のまま控除対象外消費税の負担解消を図ることは可能となる。現行の消費税制度では課税売上割合の計算上、社会的政策配慮に基づく社会保険診療等に係る非課税売上に含まれてしまうことで、課税売上割合が大幅に引き下げられている。よって、社会保険診療等の社会的政策配慮に係る非課税売上は、課税売上割合の計算から除外することにより「真の非課税」としていくものである。

 具体的には、消費税課税売上割合の計算上は「消費税の性格から課税の対象とすることになじまないもの(土地の譲渡・貸付など)」だけを非課税売上として構成させるものである。これにより課税売上割合の計算上社会保険診療等の社会的政策配慮に係る非課税売上の額が計算式の分母から除かれることになり、大多数の医療機関において課税売上割合は100%に近い水準となる。

 この方法は控除対象外消費税の矛盾解消のための運動を展開するにあたり、制定当初からの社会的政策配慮に基づく「非課税」という趣旨を徹底させるものであり世論の理解も得やすいものと想像される。

 

 上述した制度の計算例と現行の計算例を比較してみると・・・

【計算例】

a. 現行の制度に係る計算例

<前提>※金額は消費税込みである。

・健診など(課税売上)    : 1,100円

・社会保険診療等(非課税売上):19,000円

・経費(課税仕入れ)     :11,000円

 

(納付税額の計算)

 

b. 上述の制度に係る計算例

<前提>※金額は消費税込みである。

・健診など(課税売上)          : 1,100円

・社会保険診療等(非課税売上に含まれない):19,000円

・経費(課税仕入れ)           :11,000円

 

(納付税額の計算)

 aのとおり現行の消費税制度では控除できる消費税は支払った1,000円全額ではなく、課税売上に対応する部分(課税売上割合分)だけとなり、1,000円×5%=50円だけしか控除できず、100円(預かった消費税)-50円(支払った消費税のうち控除できる部分) =50円と計算され50円の納付となる。また、残りの控除できなかった消費税1,000円-50円=950円は法人の費用として負担することになってしまい、これが「控除対象外消費税」である。

一方でbでは、社会保険診療等を非課税に含めず計算することになり課税売上割合が100%となり支払った消費税が全額控除でき、100円(預かった消費税)-1,000円(支払った消費税) =△900円の還付となる。

 

② 実現に向けて

 2019年度の消費税対応改定において診療報酬の上では病院の種類に応じた補填をおこなうなどの対応がされているが、個別病院の補填過不足を解消することはできていないことが明らかになっており、また、補填されているかどうかの検証を民間の医療機関等ではおこなうことができない。加えて、病院診療所建設や高額医療機器の購入といったもののすべてが上乗せの対象となっていない点も問題点として捉える必要がある。こうした点を踏まえると①の制度を採用することにより、厚労省側でもわざわざ消費税分の上乗せ調整をおこなう必要がなくなり、業務負荷の軽減につながることが予想できる(診療報酬にすべて上乗せしきれていない問題も解消できる)。また、支払った消費税が全額控除されることから、医療機関等では経済的負担が軽減されることになり、医療機関等、厚労省双方にとって有益な制度となり得る。

 

 従来の非課税売上制度を採用していたのでは、今後も継続して控除対象外消費税の負担が強いられてしまう。控除対象外消費税は医療機関の経営を逼迫させる要因になっており、早期に解消を図っていくことが求められている(消費税の税率は近い将来さらに引き上げられることが容易に想像できるので、先延ばしできる問題ではない)。この時、医療機関における各団体組織がバラバラの主張を展開していたのでは、実現可能性が低いものになってしまうことから、医療界における各団体組織が矛盾解消のための主張について足並みをそろえることが先決である。そのうえで医療界が一致団結して「控除対象外消費税」負担の解消という実利を勝ち取っていくことが大いに期待される。

 

以上

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