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企業の倒産・事業再生と債権者に与える影響

 先行きのみえない急激な物価高騰のなかで、中小企業や医療機関などの倒産が相次いでいます。当然ながら私ども協働は倒産から企業等を守る立場ですが、本記事では倒産の意味合いと「債権者」に与える影響を整理し、こうした事態を招かないための対応と決意を改めて促したいと思います。

 

1.倒産の意味合いと取り得る対応

 「倒産」という用語自体は正式な法律用語ではなく、企業等が事業を継続できなくなった状態のことをいいます。倒産には、大きく分けて「法的倒産(法的倒産)」と「私的倒産(私的整理)」があります。また、その際に取り得る対応として、いずれの場合も「清算型」と「再建型」の2つの選択肢が考えられます。

 なお、法的な手続きにおいて、株式会社のみ適用可能な対応(特別清算・会社更生)がありますが、今回は当事務所クライアントに多い公益法人や医療法人を想定して、これら株式会社特有の方法に関する解説は省略します。

 

①法的倒産(法的整理)

 法的整理とは、裁判所の決定にもとづき、その管轄下で倒産処理をおこなう手続きです。この法的整理においては、「清算型」と「再建型」のどちらを選択するかによって、法的適用が異なります。

 

(1)清算型法的整理

 清算型による場合は、破産法にもとづく破産手続きを進めることになります。破産手続きとは、裁判所から選任された破産管財人が破産した企業の財産を調査・管理・換金処分し、債権者に分配する手続きです。この破産手続きを開始するにあたっては、下記3つの条件を満たす必要があります。

(a) 破産手続きの申立権がある債務者本人(法人代表者)や債権者による申立てであること

(b) 支払不能や債務超過といった破産手続き開始原因があること

(c) 予納金が支払えない、不当な目的であるといった破産障害事由がないこと

 裁判所から破産手続きの開始決定を受けると、財産の処分や管理についての権限が、破産者である企業から破産管財人に移ります。また、債権者は債務者に対して自由に債務の取り立てをおこなうことはできません。最終的に、破産した企業の財産は破産管財人によってすべて換金され、債権者に配分されることになります。なお、精算型といわれるとおり、企業自身は消滅します。

 ちなみに、(b)の条件につき、法人の場合は支払不能と債務超過はいずれか一方に該当しただけで、破産手続き開始原因があると認められます。債務超過は極めて不安定・不健全な財務状況といわれていることの所以でもあります。

 

(2)再建型法的整理

 再建型による場合は、民事再生法にもとづく民事再生手続きを取ることになります。民事再生手続きとは、基本的に債務者(企業)自身が主体となって、裁判所が選任した監督委員のもと、事業活動・経営活動の再生を目指していく手続きです。債務者は財産の処理や債務の支払い・一部免除など再建に向けた再生計画案を策定します。この計画につき、「債権者集会に出席した再生債権者等の過半数で、債務総額1/2以上」の同意を得ることができれば、裁判所から認可が得られます。

 民事再生の特徴点は「多数決の原理」による債権カット等が可能となることです。また、事業活動の遂行に不可欠な財産については、担保権実行中止命令や担保権消滅許可といった制度も法定化されているため、担保に付されている不動産や事業用資産などであっても、再建のために必要と認められれば換金処分を免れる可能性があります。ただし、民事再生手続きにおいては、租税債権や労働債権といった優先的な債権をカットすることは原則としてできません。

 再生計画案が認可されると、3年間は裁判所が選任した監督委員から弁済の履行状況をチェックされます。3年以内に再生計画の弁済を終えた場合、あるいは分割弁済中であっても認可決定後から3年を経過すると民事再生は終結となります。なお、民事再生手続きの申請が棄却された場合は、原則として裁判所の職権で破産手続きに移行します。

 

②私的倒産(私的整理・任意整理)

 私的整理とは、裁判所からの関与を受けず、債権者と債務者との間で返済猶予や債務免除などの交渉をおこない、合意にもとづいておこなう手続きです。文字どおり、あくまで「私的」整理ですから、債権者への法的拘束力はありません。また、債権者全員の同意が必要であり、いわゆる「多数決」で処理することもできません。

 なお、私的整理の場合も、清算型・再建型のいずれもが考えられます。ただし、あくまで債権者との話し合いと合意が前提として進められるため、性質上、基本的には再建型を目指すケースが多くなります。

 

2.倒産した場合の各種債権における優先順位

 ここまで企業が倒産した場合の対応方法をみてきましたが、その際に債権の種類ごとに優先順位が異なります。法的整理における主な債権ごとの取り扱いは下記のとおりです。なお、本記事では取り扱いを概略的にみるために「正確な」法律用語は用いていませんので留意してください。

 

①抵当権等の被担保債権

 不動産の抵当権に代表される物的担保は、他の債権に優先して、担保物の売却により当該債権を回収することができます。厳密には、破産手続き・再生手続きという法的手続きの枠外で権利行使することが可能であるため、法的手続きの進捗に関わらず担保権の実行が可能です。金融機関からの借入には不動産担保が付されていることが一般的ですから、金融機関は担保不動産を売却することによって優先的に債権を回収することが可能となります。ただし、既述のとおり、民事再生においては再建に向けた事業遂行上、不可欠と認められた担保物件については売却などを避けられる可能性もあります。

 

②賃金等の労働債権および租税債権

 次に優先されるのは賃金など労働債権や租税債権ですが、これは破産手続きと民事再生手続きでは取り扱いが若干異なります。

 まず、破産手続きにあたっては、上記①の担保物件を整理した後、手続き開始前3ヶ月間の未払賃金、1年内の租税債権等、破産管財人の報酬が優先的に随時弁済されることになります。その後、それ以外の賃金や租税債権が残っていれば、他の債権に優先してこれらが支払われることになります。

 次に、民事再生手続きですが、担保物件の取り扱いが最優先されるのは同様です。ただし、民事再生手続きの場合は企業が存続することが前提となるため、手続き開始前に生じていた未払賃金や租税債権は全額を支払うことが必要となります。仮に一括で支払うことができない場合は、分割払いなどにより支払うことになりますが、これらは他の債権に優先されます。

 なお、労働債権はあくまで他の債権より「優先される」というだけです。倒産という深刻な事態まで至っていることを考えると、労働者にとってみれば、破産の場合は退職金も含めた「全額回収」は難しいでしょうし、民事再生の場合も賃金・労働条件の改定などは避けられないと考えられます。

 

③一般の債権

 上記①②以外の債権が該当し、基本的には同列に取り扱われることになります。したがって、破産手続きの場合、債務超過法人において財産はほぼ残らないと推測され、一般の債権者にはほとんど弁済されることはないと考えられます。民事再生手続きであっても、優先的に取り扱われる①②を除くと、事業継続・経営再建のためには大幅な債権カットを要請せざるを得ないでしょう。企業が倒産した場合、一般の債権者は大きな不利益を被ることになります。

 以上、みてきたとおり、倒産が職員やその家族、債権者等に与える影響は甚大です。公益法人や医療法人、生活協同組合など「営利」を目的としない事業体であっても、理事者・管理者は「経営者」であり、経営責任を負っています。物価高騰や職員採用の困難など中小事業者を取り巻く経営環境は極めて厳しい情勢ですが、経営を守るための「決断」と「実行」を進めていくことが重要です。

 

(公認会計士 千葉啓)

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