身寄りのない入院患者の金銭管理について
近年、身寄りのない高齢者の入院が増加しており、そうした患者を受け入れる医療機関ではその金銭管理を担わざるを得ない場合が少なくないと聞きます。この管理における課題と対応について考察したいと思います。
1.背景および「ガイドライン」の策定
高齢化社会を迎えるにあたり、厚生労働省は身寄りのない入院患者が今後さらに増えることを想定し、2019年に「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」(以下、「ガイドライン」)を策定しました。この「ガイドライン」策定の背景には、一部医療機関で身元保証のない患者に対し診療行為や入院受入を拒否する事例が生じており、指針の必要性が高まったことがあります。また、こうした患者の対応は医療ソーシャルワーカーに一任されることが多く、現場の困難な状況を鑑みて日本医療ソーシャルワーカー協会が調査・提言を続けてきたこともこの「ガイドライン」策定につながっています。
2.課題
医療機関側の拒否の理由として最も多くあげられるのが患者の金銭管理(未払を含む)を担うことによる負担増大です。医療ソーシャルワーカー協会による調査報告書によると、規則やマニュアルが整備されていない中で医療ソーシャルワーカーに管理や判断が委ねられる場合が多く、過去にはそうした状況下で身寄りのない患者の現金着服事件が発生したとの記述があります。総務省関東管区行政評価局によるアンケート調査では、身寄りのない患者に関する対応マニュアルを作成している医療機関はわずか2%と顕著に低く、一般に未整備であることが伺えます。金銭等の管理全般に通ずることですが、一人によって完結する管理は恣意性が入りやすく、またその密室性から不正が生じやすくなるといえます。
3.具体的対応
まずは、医療機関の管理責任者がこうした患者の金銭管理の実態を把握し、病院として院内規則やマニュアル等を作成し金銭等の管理責任を明確にしたうえで複数人による管理をおこなうことが重要です。原則として、厚労省の定める上記の「ガイドライン」および「「ガイドライン」に基づく事例集」に則った運用とすることが適切です。「事例集」には「医療機関が(患者)本人の財産を管理する場合、必ず本人との間で財産管理委任契約を結ばなければならない。医療機関は、その契約に基づいて授権された代理権の範囲内で財産を管理することができる」と明記されており、患者の現金管理を担うにあたり契約を交わしておくことが求められています。実際の管理においては、この「事例集」や、具体例が豊富な総務省関東管区行政評価局作成の「事例集」を参照しながら規則やマニュアルを整備することが推奨されます。ポイントは、下記のとおりと考えます。
①複数人による管理体制であること
②患者一人ごとに現金出納帳が作成されていること
③保管場所が明確に指定されていること
なお、出納にあたっては、通常の現金管理と同じく、現金が動くたびに記帳して帳簿残高と現金有高の一致を確認することが基本です。
身寄りのない患者に係る公的制度として成年後見制度、日常生活自立支援事業、生活困窮者自立支援制度が存在しますが、その適用が難しいケースや利用するまでに時間がかかることが往々にしてあり、また現行の成年後見制度にしても課題が少なくなく改正案が待たれるといった状況です。医療機関においては身寄りのない患者への対応が増すことが想定されますが、特定の職員に対応を一任したり現場職員の善意に任せたりするのではなく、医療機関および法人として管理の指針を定め運用することが重要です。無差別平等の医療、介護・福祉の実現を目指す民医連法人であればなおのこと、現場でその実践に取り組む職員を守るための仕組みを整備・運用することが望まれます。
<参考資料>
厚生労働省,「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」および「「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」に基づく事例集」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/miyorinonaihitohenotaiou.html
総務省 関東管区行政評価局,「高齢者の身元保証に関する調査」
https://www.soumu.go.jp/kanku/kanto/kanto08.html
医療ソーシャルワーカー協会,「身寄りのない患者を取り巻く 社会的課題についての研究 報告書」
https://www.jaswhs.or.jp/news/news_detail.php?@DB_ID@=2011#gsc.tab=0
医療ソーシャルワーカー協会,「身元保証がない方の入退院支援ガイドブック」
https://www.jaswhs.or.jp/images/NewsPDF/NewsPDF_69tjLpn6Jrq5EM9x_1.pdf
(後藤 愛由美)







