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社会福祉法の大規模化
去る2019年6月に実施された厚生労働省の社会福祉法人の事業展開等に関する検討会において、医療分野における地域医療連携推進法人制度と同様に社会福祉法人主体の連携法人制度の創設に向けて検討を進めると発信されました。地域医療連携推進法人制度についてはここでは詳細に触れることはしませんが、社会福祉法人のあり方については、近年合併に関する法改正や小規模法人のネットワーク化による協働推進事業の実施など、大規模化・協働化が制度上進められており、実際に数は少ないながらも合併事案も現れています。ここでは、社会福祉法人の大規模化について法制度にも触れながら考えてみます。
1.背景
従来の社会福祉法人は行政からの一法人一施設の指導や補助金の手厚さもあり、多くが中小規模の法人として運営されていました。高齢化社会の深化や地域における福祉ニーズの多様化といった課題が浮かび上がってきた結果として、ここ10~20年の間に介護保険法や障害者総合支援法の制定などの制定や補助金の軽減等により、その間の不十分な議論や制度自体の是非はあるとしても、社会福祉法人を取り巻く社会経済環境は大きく変化してきました。
2.社会福祉法の合併
2016年の社会福祉法の改正以前より、社会福祉法人は他の社会福祉法人と合併することが出来るとされていました。法改正前と後で、所轄庁の認可を受けなければならない点では変わりません。しかし法改正前は、「合併の認可の申請は当該社会福祉法人の主たる事務所の所在地の都道府県知事を経由して行わなければならない。この場合において、当該都道府県知事は、必要な調査をし、意見を付するものとする。」とされていましたが、法改正によって前述の部分は削除され、社会福祉法人同士の合併が従前と比べて容易になりました。とはいえ、社会福祉法人の合併手続には、合併契約、所轄庁への合併認可申請、債権者保護手続、登記手続と各段階で必要な手続について段階を踏んで実施していく必要があります。
また、合併は法人及び債権者だけでなく、他の関係者にも大きな影響を与えることから、最大限の配慮をする必要があると考えられます。実際の法人の運営を支える職員に関して、合併後の労働条件等を検討し、説明し、理解を得ることは重要な課題です。さらに、利用者やその家族、あるいは地域に対しても合併の説明を実施し理解を得ることも重要であると考えられます。
3.大規模化
社会福祉法人に限ったことではありませんが、組織の大規模化にはメリットもあればデメリットもあると考えられます。社会福祉法人で考えると、大規模化によって地域の期待に応えられる柔軟な事業展開、人材配置と人材確保、IT化等による業務の効率化、等が考えられます。他方、本部機能の確立、施設毎に縦割りにならないようなガバナンスの工夫、といった点に留意する必要があります。
4.まとめ
社会福祉法人のあり方は過渡期であると考えられ、制度上大規模化・協働化が推し進められていると言えます。その根底には新自由主義経済政策による社会福祉の市場化、規制緩和があるとも考えられます。補助金の削減や社会保障費の削減といった政策によって監督官庁が責任転嫁しているとも言えます。そのような考え方を批判的に捉え、制度に安易に飛びつくことは自制するべきですが、現実問題として直面する課題を乗り切るために吟味検討の上で大規模化・協働化を図ることは場合によっては必要であると考えられます。特に小規模な社会福祉法人においては、この間の介護報酬改定の影響もあり経営的に非常に厳しい状況にあると考えられます。これからの法制度の整備状況も注意深く見守りつつ、積極的に法人の統合・合同を推し進めることも必要かもしれません。我々としても業務上社会福祉法人の大規模化・協働化に面した際には最大限支援していきたいと思います。
5.参考
社会福祉法人については、経営組織のガバナンスの強化の観点から一定規模以上の法人に対して会計監査を導入しなければならないとされています。詳細は「社会福祉法人の会計監査と専門家による支援等について」(協働HP)を参考にして下さい。
なお、上記HPに記載されている会計監査人の設置基準については、当初2019年に引き下げることとされていましたが、延期となっています。社会福祉法人を取り巻く環境の一つとして今後の動向を注視していきたいと思います。
以上